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Cosmo Future: Power Titan GINGA ~Chapter 6~

衝突

「労組の集会、今日だよね」
「このビラには、そう書いてあるけど」
 集会禁止の看板が立った、サソリザ公園の入り口。まばらな雑踏の中で、2人の青年が話していた。
「それ、公園が使用禁止になる前のビラでしょ」
「続報はないからなあ。どうなるんだろう」
 ほんの一瞬、高速で上空を飛行する巨竜が彼らに影を落とした。青い巨竜は公園とその周辺を俯瞰し、間もなくとんぼ返りした。

「スカイリューが戻りました。平常時の警備以外は敷かれていないそうです」
 集会当日の朝。会議室に集った組合員たちに、コスモスは告げた。
「それは妙だな」ジャガーは首を傾げた。
「集会は中止か、場所を変えたと思ってるんじゃ」コスモスは言った。
「そんなバカな」リゲルは言った。「俺たちがどういう組合か、リヴァイアサンもよく知ってんのに」
「まあ、お前が一番ビビってたけどな」
別の組合員に指摘されて、リゲルは咳払いをした。
「何か、意表を突く策があるのかもしれん」ジャガーは言った。「気を緩めるな。予定通りの態勢で臨むぞ」
「よーし。全員、配置に就け」
 先発隊が飛行船とワゴン車に分乗すると、両ビークルは同時に発進した。
「スカイリュー、寝ちゃってます……朝、早かったから」スカイパフォーマーのコスモスは、ランドチャッター1号車のジャガーに通信で話した。
「こっちの2匹もだ。いざって時は、お前が頼りだな」ジャガーは笑った。

「あ、労組の街宣車」
「飛行船も来てる。やっぱり、あそこでやるんだ」
 公園を後にした2人の青年は、ランドチャッターとすれ違うと、引き返してその後を追った。
「これは見ものだ。リヴァイアサンが、どう出るか」

 スカイパフォーマーとランドチャッターは公園に進入した。
「ちょっと。集会禁止ですよ」
車両の方は、警備員に呼び止められた。
「車両通行止めとは聞いてないがね」運転手は切り抜け、そのまま園内の車道を走った。
「なぜ、あっさり通した」ジャガーは眉をひそめた。
「普段なら、一悶着あるんですか」通信機越しに、コスモスは尋ねた。
「日に依るがな」運転手が答えた。「駄目なときは、“上からの指示なので通せない”の一点張りだ」
「今日が“駄目な日”じゃないってのが、おかしい」ジャガーは言った。「この先、絶対に何かある」
 1号車が駐車すると、乗員は指令役のジャガーを残してビラ配りを始めた。
「私もバイト、減らされて大変なんです。頑張ってくださいね」
「あんたら、無許可集会やる気か。リヴァイアサンが黙ってないぞ」
「悪いね。いつもならビラ受け取るんだが、このご時世だから」
反応は人それぞれだった。
 スカイパフォーマーは広場の上をホバリングし、音楽を流し始めた。
「やっぱり、人通りは少ないですね」
「コスモス。お前、演説やってみろ」
「ええ……?」コスモスは困惑しつつも、マイクを受け取った。「さ、サソリザ公園をご利用中の皆さん。おはようございます……」
 やがて、後発隊のランドチャッター各車も現場に到着した。
「会場設営、完了です」
「よし。受付を開始してくれ」ジャガーは告げた。「スパイには、気を付けろよ」

「只今から、受付を開始いたします。この集会は、すべての労働者が生きるための……ん?」
 呼び込み演説の最中、コスモスは地上の異変に気付いいた。茂みに隠れて、不審な動きをする人物がいたのだ。
「危ない!」突然、コスモスは懐からペガサスイッチャーを取り出して展開した。スカイパフォーマーから純白の光が飛び降り、受付の目の前に光の柱が立ち上った。次の瞬間、何処からともなく石が飛来し、光の柱に跳ね返された。
「投石……? 労組反対派か」受付の組合員は困惑した。
「間一髪でした」光の柱は消え、変身前のコスモスが現れた。「出て来てください。なぜ、こんなことをするんです」
「パワータイタンか」石を投げた人物は、舌打ちをして茂みから出て来た。その人物は防護マスクを着用していて、顔は隠れていた。「お前たちこそ、こんな時に集会なんてどういうつもりだ」
「こんな時だからこそ、労働者の生活を守るために――」
「うわっ」組合員の悲鳴がコスモスの話を遮った。広場の中からだ。
「どうしました」コスモスは駆けつけた。
「石が飛んで来たんだよ。腕で済んだからよかったが、危うく顔に当たるところだった」
「しまった。1人じゃなかったのか」
「その通り。お前たちは、囲まれている」コスモスが話していたのとは別の人物が、拡声器で叫んだ。「我々は、防疫パトロール隊だ。直ちに集会を中止し、解散しろ」
「解散しろー」四方八方から、シュプレヒコールが鳴り響いた。
「なるほどね。これが、規制が緩かった理由か」本部車両から降りて、ジャガーは苦笑した。「民間人の相互監視ほど、リヴァイアサンに好都合なものはない」
「そんな……この人たちだって、労働者じゃないんですか」コスモスは立ち尽くした。
「生憎、どの職場にもうちみたいな労組があるわけじゃない」リゲルが言った。
「時間だ。集会を始めよう」ジャガーは通信機で、全体に指示を出した。「何、このくらいで予定を変える必要はない。みんな、怪我だけはするなよ」
「やめろというのに」防疫パトロール隊を名乗る人々は、一斉に腰を下ろして石を拾った。
「まずい。今度は、全方向から来る」コスモスは察知した。「もう、こうなったら巨人 (ギンガ) になるしか――」
 そう思った矢先、上空の飛行船から青い光が旋回しながら急降下して来た。光は成体のスカイリューになり、その長大な体が広場を包囲した。
「今度は巨獣か。なんて奴らだ」
「テロリスト風情は、この街から出て行け」
相次ぐ投石がスカイリューを直撃した。スカイリューは微動だにせず、耐えた。
「誰がリーダーだ。すぐに止めさせろ」スカイパフォーマーに残っていた組合員が、怒号を響かせた。広場内の組合員たちも、周囲に向かって叫んだ。投石は続いた。
「スカイリュー!」コスモスは悲鳴を上げ、我を忘れてペガサスイッチャーを掲げた。その右腕に幼体のヴォルガレオが飛び付き、コスモスはバランスを崩して倒れた。
「離せ。邪魔をするな」コスモスは怒鳴った。ヴォルガレオは仰向けになったコスモスの胸にしがみ付き、涙ぐんだ目でコスモスの瞳を見詰めた。
「スカイリューの思いを無駄にするな。そう言いたいんだろう」ジャガーはヴォルガレオの頭を撫でた。コスモスの体から力が抜けた。
 収まらなかったのは、もう1体のエレメンタルだった。幼体のギガンジュロは本部車両を飛び出し、緑色の光を放ちながら巨大化した。広場の真ん中で、成体のギガンジュロは雄叫びを上げた。防疫を謳う人々も流石に怯んだのか、投石はぴたりと止んだ。

 スカイリューは再び青い光に変わり、コスモスの眼前で幼体に戻った。スカイリューは芝生の上に、ぐったりと横たわった。
「スカイリュー!」コスモスは駆け出し、スカイリューを抱き上げた。満身創痍のスカイリューは、首を持ち上げてコスモスの頬を舐めた。コスモスは大粒の涙を流し、スカイリューを抱き締めた。ヴォルガレオと、幼体に戻ったギガンジュロは、悲しそうに目を閉じてコスモスに体を寄せた。
「うわああ」コスモスの悲鳴が、公園一帯に響き渡った。

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