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Cosmo Future: Power Titan GINGA ~Chapter 4~

矛盾

「エナジーバックルが変化してるな。ブラックホーン自体が、変身システムを形成してしまったのか」
 見つかったサイボーグは気を失っていたので、コスモスは事務所に連れ帰ってジャガーに見せていた。
「下手にパワージェムを取り出すと、生命維持機構も停止してしまう。とりあえず、このシリンダーを補給(チャージ)ポジションに固定しておこう」ジャガーはコスモスからスイッチナイフ型のアイテムを受け取ると、折り畳まれた純白の羽根を展開し、サイボーグの下腹部に光のエネルギーを注いだ。
「う……」
 丁度その時、サイボーグは眠りから醒めた。
「あ、気が付いた?」コスモスは途端に明るい表情になり、サイボーグの顔を覗き込んだ。
「アンタ、誰だ? それに、此処は……?」
「起き上がれるなら、外の空気を吸って来るといい」ジャガーは言った。「コスモス、付き添ってやりな」

「宇宙革命じゃなくたっていいじゃない……」
 赤甲のトリトンは、旧友に語り掛けた。「向こうも“主権は尊重する”って言ってるんだよ。これ以上、系民に矛盾を強いるわけにはいかないよ」
「連中がどんな甘言を吐こうと、太陽系だけの平和なんて続くわけがない」濃紺のドラコは反駁した。「だいたい、みんなが担い手になってこその人類解放だって、言ってたのはお前じゃないか」
「ごめん」スパイクは俯いて、右腕の鋏を前方へ突き出した。「もう、僕が限界なんだ」
「それなら、休ませてやるよ」スイフトは左の拳を胸の前に構えた。ブレスレットから肘まで伸びた夕雲色のカッターが、弓状に展開した。「この先には、行かせない」

「“ケイオス”ってのは、軍で貰ったコードネームだ」
 事務所の正面にある広場のベンチに腰掛けて、少年はコスモスに語った。「本当の名前は、ユニコーン」
「その歳でサイボーグって、アンタレスでは普通なの」コスモスは尋ねた。「あ。嫌なこと訊いてたら、ごめん」
「別に」ユニコーンは気さくに手を振った。「この社会ではさ、誰もが改造人間なんだよ」
「誰もが……」
「だって、教育ってそういうことだろ。サイボーグ手術も、その延長さ」
「ニュースでは、君は脱走兵だって」
「そうだよ。軍は、いじめがひどくてさ」ユニコーンは言った。「この、胸にあるのはスカーシールド。戦闘で壊れた外装を雑に塞いでるから、とんだ急所になっちまった」
「じゃあ、そこもジャガーさんに見せて、直してもらおうよ」
「さすがに、そこまで世話にはなれないよ」ユニコーンは笑った。「それより、アンタもパワータイタンなんだろ。太陽系評議会の、使命を帯びた」
「変身の負荷は殆どないよ。ペガサスイッチャーは、精密に調整してもらったから」コスモスはそう言って、懐からパワージェムの増幅器を取り出した。「ただ、僕のお母さんのことは、評議会は絶対に忘れちゃいけないと思う」
 コスモスはユニコーンに、母親の最期のことを話した。それはコスモス自身、評議会のマラトンに見せられた映像でしか知らない過去だった。
「それって、“烈士ブレイズ”……」ユニコーンは言った。「アンタレスでも有名だよ。そうか、遺された赤ん坊っていうのはアンタだったのか」
「変身適性は、誰もが持ってるわけじゃない」コスモスは語った。「でも、マラトンさんは言ってた。あの最期の技(ロケットドライブ)を止める術は、あったはずだって」
 その時、コスモスの腕時計が着信音を鳴らした。
「あれ、キマイラからだ。何だろう」
「ありがとな。この体になってから話を聞いてくれたのは、アンタが初めてだ」そう言って、ユニコーンはベンチから立った。
「これからどうするの」広場を去ろうとするユニコーンに、コスモスは尋ねた。
「バイトを探すよ。ブラックホーンも、飯の代わりにはなんないから」ユニコーンはコスモスに背を向けて、手を振った。
「事務所(ここ)で働けばいいのに」その言葉は、もうユニコーンには届かなかった。「そうだ、電話。もしもし……え、議長が?」

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