見出し画像

Cosmo Future: Power Titan GINGA ~Chapter 8~

混沌

 軍機に囲まれたケイオスは、槍を握る右手を少し緩めた。槍は再び変身キーに変化し、ケイオスはそのキーを下腹部のシリンダーに挿し込んだ。
 次の瞬間、銃撃音と共に無数の爆炎が立ち上った。
「ユニコーン!」コスモスは叫んだ。
≪Power Titan≫
爆炎に隔てられつつも、コスモスはエナジーバックルの電子音声を聴き取った。黒煙の奥からブルーの光が差し込むと、ケイオスは見る見るうちに巨大化していった。
「撃て、撃て」集中砲火は一層、激しさを増した。ケイオスは槍を振り回し、飛んで来る砲弾を手当たり次第に破砕した。スカーシールドは既にレッドの光を発し、警告音を鳴らしていた。
「おいおいおい。何じゃ、ありゃあ」喫茶店の中から、1人の中年が飛び出して来た。
「逃げ遅れたのか」コスモスは中年に駆け寄った。「ここは危険です。早く」
「ユニコーンか。お前、うちのユニコーンなのか」アイアングレーの巨体を見上げて、中年は叫んだ。
「うちの……?」コスモスは気付いた。「もしかして貴方は、おもちゃ屋の」
 その時、2人を頭上から大きな影が覆った。影の主は、ケイオスが真っ二つに切断した砲弾の片割れだった。
≪オープン・クエイクチャプター≫
コスモスは咄嗟にサクセスイッチャーを起動した。硫黄色に輝く拳が、砲弾の破片を粉々に打ち砕いた。
「今のユニコーンには、店長さんも見えてないか」コスモスは眉を顰めた。
 そこへ、青い巨竜が風を切って飛んで来た。
「スカイリュー! 怪我は、もういいのかい」コスモスはスカイリューの頭を撫でた。「なら、この人を頼む」
スカイリューは店長を首に乗せて避難した。それを見届けて、コスモスはペガサスイッチャーを頭上に掲げた。展開したギャラクシーフェザーが純白の光を放ち、コスモスは真珠色の巨人に変身した。

「2体の目標が揃った。鉄鎖機獣(ドローミ)を出せ」
 戦車内の指揮官が、無線で告げた。
 ギンガの両隣には、巨大化したヴォルガレオとギガンジュロが並んだ。
「2人は砲撃を無力化して」ギンガは2体のエレメンタルに伝え、ケイオスの方へ駆け出した。「ユニコーン、早く変身を解くんだ」
「何で、まだ此処にいる」ギンガに気付いたケイオスは、息を切らしながら言った。「急いだ方がいいって、言ったよな」
「置いて行けるわけないだろ」
≪友情というのは美しいな≫ 巨大な飛行体の影と共に、増幅された軍人の声が一帯に入り込んだ。≪此方も、美しく任務を遂行できる≫
「これは、機獣?」パワータイタンになった身体の数十倍にもなる巨体を見上げて、ギンガは言った。
「相手がこれなら、幾ら暴れても暴れ過ぎることは無いな」ケイオスは笑った。
「でかすぎる……」機獣は、避難中の人々にも影を落としていた。
「リヴァイアサンは、あんなものにばかり予算を」受け取ったばかりの日当袋を握り締めて、憤る労働者もいた。
「ユニコーンをどうする気だ」ギンガは構えた。「これ以上、軍の犠牲にはさせないぞ」

「先に光の巨人を捕らえろ」
 機獣内のブリッジに座る指揮官が、パイロットに命じた。「ケイオスを仕留めるには、内蔵電池だけでは足りない」
「デバイディングチェーン、発射」
機獣から飛び出した鉄鎖が、ギンガの手足に巻き付いた。
「しまった」鉄鎖はギンガを縛ったまま急速に巻き取られ、機獣の平たい部分に巨人の体を打ち付けた。
「何」捕らわれたギンガの姿に、ケイオスは目を疑った。「どうして、コスモスを」
「エネルギーが……吸い取られていく」ギンガの胸に輝くサーマルスターは、青から赤へと見る見る変色していった。
≪赤化した太陽系の工作員など、煮て食おうと焼いて食おうと自由だろう≫ 指揮官はマイク越しに嘲笑った。
「ふざけるなあ」ケイオスは叫び、槍を振り翳した。
≪勿論、我が軍からの脱走兵もな≫ 指揮官の言葉を受けて、パイロットは再び鉄鎖の発射ボタンを押した。
「離せえ」鎖はケイオスの四肢をも縛り、ギンガの隣にその身体を固定した。「こんな鎖、引(グラーブ)の力で——」
ケイオスは体に力を込めた。鎖はブラックホーンの引力に吸い寄せられたが、潰れたり千切れたりはしないまま、ケイオスの手足を締め付けて侵蝕した。
「ぐああ」ケイオスは悲鳴を上げた。
 磔のように捕捉された2人のパワータイタンは、虚ろな目で街を見下ろした。ドローミと名付けられた巨大な機獣は、見せしめを携えてゆっくりと飛行を続けた。

分断

≪これ人権侵害じゃないの≫
≪右でも左でもない普通のアンタレス人が捕まってるならやばいけどそうではないらしい≫
≪パワータイタンでもあのザマじゃ、リヴァイアサンには誰も勝てないよな≫
≪アンタレスは再びの侵攻に備えなきゃいけないんだ。この位の力を持つのは当然≫
 マスコミのカメラ越しに様子を見ている人々の声が、SNSに溢れた。
「大変なことになってる……」鉄道労組の面々も、動揺を隠せなかった。
「それはコスモスが? ネットの世論が?」
「両方だよ。兎に角、コスモスは助けないと」
 その頃、現場にいる2体のエレメンタルはギンガとケイオスを救出しようと必死だった。ヴォルガレオは鬣からドローミの機体に火山弾を連射し、ギガンジュロは腕から蔓を延ばして機獣の動きを止めようと試みた。逃げ遅れた市民を避難させていたスカイリューも、現場に戻って来て標的に風雨と雷撃を浴びせた。機獣の巨体はびくともしなかった。
≪あの青と緑のエレメンタルって、鉄道労組の無許可集会にいた奴らじゃ≫
≪あれ以来、警察はなんで事務所を捜索してないんだ。まあ、せいぜい悪あがきしてればいい≫
≪ちなみに赤いのも目撃証言がある。「ケイオス」が初めて巨大化した現場に太陽系人を乗せて来てて、その太陽系人の正体があのスパイタイタン≫
≪特定こわ≫
「何だこれ……集会で支持が拡がったと思ったのに」
「排外主義は、リヴァイアサンの強力な武器だからな。太陽革命後は、特に」
「今はタイムラインなんか見てる場合じゃない」リゲルが組合員たちに喝を入れた。「俺たちも現場に急ぐぞ。あと、軍に耐えかねた少年も俺たちの仲間だ」
「すっかり頼もしくなったな、リゲル」ジャガーは言った。「情報班だけは機材を忘れるなよ」

「パフォーマーおよびチャッター各車、現着。シュプレヒコール、用意」
 組合員たちはドローミの影の中に集結した。
≪リヴァイアサンは2人のパワータイタンを解放しろー≫
≪異系人を差別するなー≫
≪少年兵への人権侵害をやめろー≫
「あ、アタシのことまで……」ケイオスは掠れ声で驚きを露わにした。「労働組合とは、何の関係も無いのに」
「関係あるんだよ、それが」ギンガは言った。「君の敵が労働者の敵でもあることを、彼等は知っている」
≪リヴァイアサンのために死んでたまるかー≫
≪鉄道労組は、戦争協力を拒否するぞー≫
 やがて、赤黒く消えかかっていたギンガのサーマルスターが光を取り戻し始めた。
「これは」コスモスは体に力が戻って来るのを感じた。「皆んなの声が、ギャラクシーフェザーに力を与えているのか」
 ギンガは全身に力を込め、手足を縛る鉄鎖を遂に引き千切った。消耗はなお激しく、ギンガは着地するや否やうつ伏せに倒れ込んだ。
「組合(おれたち)だけじゃ足りない」ジャガーは組合員たちに告げた。「仲間を集めるんだ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?