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Cosmo Future: Power Titan GINGA ~Chapter 5~

疫病

「フェイスプロテクターとポータブルハンドウォッシャーは只今、品切れとなっております。お並びいただいてもお買い上げになれません。恐れ入ります」
 街中の薬局に、客が殺到していた。
「満月病対策か。地球から持ってきたマスク、まだあったかな」買い物からの帰りがけに、コスモスはふと思った。だが、道すがら考えていたのは、もっと深刻なことだった。
 トリトン議長が離反した。それが、キマイラのヴォルフガングから電話で告げられた事件だった。交戦中のケフェウス連合と、相互の「内政不干渉」を確約しようというのだ。帝国がせめぎ合う宇宙にあって、それは守られる見込みもない悪魔との契約に等しかった。
「宇宙革命は無理だというなら、僕は何のために此処へ……」コスモスは俯いた。「父さん、アルタイル、太陽系の皆さん。どうか、負けないでください」

「ただいまです」
 コスモスは事務所の扉を開けた。
「やあ、コスモス。困ったことになったぞ」ジャガーは告げた。「サソリザ公園の使用許可が下りないんだ」
「え」
 国立サソリザ公園は、賃下げ反対集会の会場にする予定の場所だった。
「満月病の拡大防止、だとよ」組合員が言った。
「そんな……その拡大防止の影響で、皆さんの賃金が減らされてるのに」コスモスは眉を顰めた。
「今度の集会は、リヴァイアサンとの肉弾戦になるかもしれん」ジャガーは言った。
「それ、現実的ですかね」ジャガーより一回り若い組合員が言った。
「いざという時は、僕に任せてください」コスモスはペガサスイッチャーを握りしめながら言った。「勿論、指示には従います」
「あのな、坊主。労組が犯罪集団と見なされたら、どうなると思う」リゲルが言った。
「じゃあ、こうするのはどうですか。僕は物陰で待機しておいて——」
「それは意味がない。ギンガが弾圧現場に現れれば、労組との関係はすぐに突き止められる」ジャガーはコスモスを遮った。「だが、引き下がるわけにいかないのは、コスモスが言った通りだ。こんなことを許していたら、労組は金輪際、何もできなくなる」
「問題は、事後弾圧と世論なんですよね。コスモスくんとエレメンタルたちが、防衛してくれるなら」組合員の1人が言った。「それって、今までずっと立ち向かってきたものじゃないですか」
「でも、疫病は手強いぞ。他の労組は軒並み、集会を自粛してやがる」
「その状況は、むしろ我々が率先して闘うことで突破するしかない」ジャガーが言った。「この嵐は、待てば待つほど長引くぞ」
「待てば待つほど……」コスモスは息を呑んだ。
「大勝負……やってみますか」先ほどまで慎重派だった組合員の1人が言った。「そもそも、公園使用が許可制なのがおかしいしな」
「ギンガがいるからって、無茶はするなよ。基本的に、逮捕者は出さないぞ」ジャガーは諫めた。「満月病で解雇や賃下げを喰らったすべての労働者に、希望を与える。それが、今度の集会の目的だ」
「よーし!」組合員たちの心が、一つになる瞬間だった。

「お疲れ様でした。組合をまとめるのって、大変なんですね」
 歩いて帰る途中、コスモスはジャガーに言った。
「これでも、昔よりはあっさりまとまった方だ」
「そうなんですか」
「会社側が、切り崩しを全然やってないみたいだ」
「切り崩し?」
「要は、大人しくしていれば賃金は保障するってことだ。連中にも、その余力はないんだろうな」
「雇い主が凶暴になるのは弱っているとき、ってことですか」
「その通りだ。賃下げの中で組合活動を続けるのは大変だけど、そういう時はチャンスなんだよ」
「ピンチはチャンス、ってことか……」コスモスは唸った。「あ、寄り道してもいいですか」
 コスモスが見つけたのは、小さな玩具店だった。
「何だ。ハイドロンのおもちゃでも欲しくなったのか」ジャガーは笑った。
「ギガンジュロに、お土産ですよ」コスモスは答えた。「あの子、人形が好きでしょ」

再会

 自動ドアが開くと、コスモスは玩具店に入った。
「わあ、サイボーグだあ」
「——え」コスモスはぎょっとした。子供が群がっていたのは、アイアングレーの装甲の上にエプロンを着た少年だったのだ。
「いらっしゃいませ……って、アンタ。なんで、ここに」若い店員もコスモスに気づいた。その表情は驚きとともに、ぱっと明るくなった。
「ユニコーン! それは、こっちの台詞だよ」目を丸くしたまま、コスモスは言った。
「ここでバイトしてんだ。この体のおかげで、大人気さ」子供の頭を撫でながら、ユニコーンは言った。
「大人気さ、って……君、軍に追われてるんじゃ」
「大人はみんな、コスプレだと思ってるよ。人のいい店長以外は」
「すごい店長さんだね……」
「そうだ。これ、知ってるか」ユニコーンは陳列されている商品の中から、カラフルな南京錠型の玩具を持ってコスモスに見せた。「エレメンジャーって、いってな。地球が舞台のヒーローものなんだぜ」
(可愛いな。こんなに夢中で話すなんて)コスモスは微笑んだ。「それは気になるな。ただ、僕が探してるのは——」
 その時、コスモスの腕時計が着信音を鳴らした。
「あ、ジャガーさん……え、リクエスト? 紫の変身デバイス?」
「アストロッカーだな。ちょっと待ってろ」ユニコーンはバックヤードに向かった。「ちょうど、今週の回で登場だったからな……よかった。まだ在庫、ある」

 コスモスは商品を受け取り、会計を済ませた。
「元気そうでよかった」
「また来てくれよ」
 コスモスを見送ると、ユニコーンは腰のエナジーバックルに視線を落とした。
「こっちの鍵も、見つけないとな」シリンダー部分に開いた鍵穴を真顔で見つめて、ユニコーンは呟いた。「光のパワーでロックされたなら、何処かに影があるはず」

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