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Cosmo Future: Power Titan GINGA ~Chapter 3~

事変

「アルタイルは出撃に備えておけ」
 ドラコは通信室を飛び出した。「会議室だと。まさか……」
振り回された赤い玉鎖が宙を切り、その先端の毒針が新緑と白銀の装甲を直撃した。
 そこは、前線基地キマイラ内の一室だった。テラを強化していた新緑の武装は消散し、スラッシュの鎧は表面が溶け出して不完全態に変貌した。2人を襲った赤甲の戦士はマリンブルーの光に包まれ、水が浸み込むように壁をすり抜けて往った。
 息を切らしたドラコが勢いよく開けた扉の奥は、荒れ果てた会議室だった。机や椅子は大半が損壊し、傷付いたレオンとヴォルフガングが横たわっていた。
「ドラコ……トリトンを追え」レオンは声を振り絞った。
「これは、トリトンにやられたのか」ドラコは問い質した。
「毒性攻撃に、気を付けろ」ヴォルフガングが告げた。「今の水棘(スパイク)は、俺たちの知っているトリトンではない」

 組合事務所の食堂に、狐色の幼獣が駆け込んできた。
「ヴォルガレオ」コスモスは声をかけた。「どうしたの、こんなところへ」
「また、留守番に退屈したんだな」ジャガーは言った。「コスモス、散歩にでも連れて行ってやれ」
「あ、はい」
ヴォルガレオはコスモスに駆け寄った。
「まあ、どちらかというとお前が案内される側だと思うけどな」
「それは頼もしい。エスコート、よろしくね」コスモスはヴォルガレオの頭を撫でた。
 コスモスが最初に連れられたのは、およそ動物がすすんで行きたがるような場所ではなかった。ヴォルガレオは、事務所の近くにある喫茶店がお気に入りだった。
「これがエレメンタルの生態……の、はずもないよな」慣れた手つきでデザートを注文するヴォルガレオを、コスモスは目を丸くして眺めた。「僕は……ココアだな」
≪番組の途中ですが、いま入ってきたニュースをお知らせします≫
 テレビに映ったのは、市街地に火花を撒き散らしながら暴走するサイボーグの姿だった。
「あれって、さっきの」コスモスは立ち上がった。「ヴォルガレオ、行くよ」
 ヴォルガレオは駄々をこねた。注文したデザートは、まだ届いていないのだ。そうしている間に、画面の向こうのサイボーグは真っ黒な刃の槍を振り回し、胸のランプからブルーの光を放ちながら巨大化し始めた。
「まさか、パワータイタン」
ヴォルガレオも遂に目の色を変えた。コスモスと共に店を飛び出すと、ヴォルガレオは瞬く間にライオンの成獣ほどの大きさになり、コスモスを背に乗せて駆け出した。炎の鬣を燃え上がらせ、狐色の獣は雄叫びを上げた。

騒動

「スティングレイ、緊急発進」
 白雪と同サイズの赤いフライヤーが、キマイラを飛び出した。コクピットに乗っているのは、地球自治委員長を経て太陽系評議会議長として闘ってきたトリトンである。その右腕に着けられたブレスレットは、マリンブルーの宝珠と鋏状の金属パーツで装飾されていた。
「どういうことだ」
「議長専用機が、なぜ」
 基地内は混乱していた。
「アルタイル隊は、先発したドラコを援護」リカオンが指示した。「スティングレイの足を止めるんだ」
「そんな……議長の捕捉が任務だなんて」コクピットで待機していたアルタイルも、戸惑いを隠せなかった。「でも、確かに正気じゃない。潮流の石(マリンドロップ)があるからって、司令陣にも無断で交渉に行くなんて」

≪アンタレス軍より、巨大化したサイボーグは、かねて軍が指名手配していた脱走兵、“混沌(ケイオス)”であると発表されました≫
 ヴォルガレオが到着した現場には、禍々しい黒槍で満身創痍の巨体を支える鉄人が影を落としていた。その頭部は神秘の力で変化し、1本角の獣人の様相を呈していた。
「パワージェムを持ち出して、エナジーを補給してたな」軍人たちが叫んでいた。「しかも、よりによって絶望の石(ブラックホーン)とは」
「ありがとう。あとは、僕が」コスモスはヴォルガレオの背から降りると、懐からスイッチナイフ型のアイテムを取り出し、頭上に掲げた。折り畳まれていた未来の石(ギャラクシーフェザー)が展開し、純白の光がコスモスの身体を包んだ。
 アイアングレーの巨人の眼前に、突如として真珠色の巨人が現れた。ケイオスと呼ばれた巨人は、黒槍を振り上げてギンガに斬りかかった。
「問答無用か」ギンガは身軽な跳躍で槍を躱すと、空中で腕時計型の装置を起動した。
≪オープン・クリスタルチャプター≫
展開した文字盤を、ギンガはケイオスに向けて突き出した。群青色に光る冷気が、ケイオスに降り注いだ。

 スティングレイは全速力で、宇宙空間を航行していた。
≪ジェムパワー反応、接近。波形照合≫トリトンが乗るコクピットのモニターが、アラート音声を発出した。≪照合完了。スカイフレイム≫
「サンセットウィンガー……やはり来たか、ドラコ」
「止まれ、トリトン」濃紺のスイフトは右掌のビームスフィアから、夕陽色の光線を何発か放った。スティングレイは機体を傾けて光線を躱した。
 トリトンは右腕のブレスレットを肩の前に構えた。鋏型のパーツが自動で展開し、マリンブルーの宝珠が強い光を放った。
 スティングレイの天板に、赤甲の巨人が立った。その右腕には、蟹の爪に似た大型の武器が装備されていた。スラッシュとテラを襲った毒針は、巨人の後頭部に玉鎖でぶら下がっていた。
 星屑が飛び交う暗黒の中、2人の戦士が向かい合った。

 光の冷気はケイオスを覆い、その動きを封じた。
「う……ああああ」程なくして、ケイオスは全身から闇のオーラを放ち、群青の光は闇と共に黒い槍の刃に吸い込まれてしまった。
「何だ、今のは」ギンガは両手に光のサーベルを握り、突進してくるケイオスの槍を凌いだ。すると、暗黒の刃が今度は2本のサーベルを吸い込み、そのままギンガを斬り付けた。
「うわあ」ギンガのエネルギーは急速に消耗し、胸のランプは青から一気に橙まで変色した。「そうか! これは引(グラーブ)の力」
 ギンガは胸のランプにエネルギーを集中させ、目映い虹色の光線を放った。ケイオスは胸の前で槍を回旋させ、ブラックホールのような闇の渦を発生させた。
 闇を払う光と、光を封じる闇。相反する2つの力は相打ちとなり、やがて対立する巨人はいずれも力尽きて姿を消した。
「あの人も、そう遠くにはいないはず」
 人間体に戻ったコスモスは、息を切らしながらサイボーグを捜しに行った。

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