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SS【黒い靴】


祝日の早朝に「ガタガタ」という物音で目覚めたタケルくん。

お母さんが家の片付けをしているようです。

タケルくんはふたたび眠りにつきました。

しばらくすると今度は掃除機の音が聞こえてきました。

こうなるともううるさくて眠れません。


タケルくんが様子を見に行くと、お母さんは押し入れを整理しています。

押し入れの前には重そうな研磨器や、ブリキ缶の中に収められている日焼けして茶色くなった本が置いてありました。


「タケル、明日は燃えないゴミの日だからこれ捨てるの手伝ってね」


お母さんは重そうな研磨器を指差しながら言いました。


「うん、わかった」


「あれ? まだ何かあるわ」


お母さんはそう言うと押し入れの奥から木箱を引っ張り出してきました。

木箱は古着の切れはしのようなヒモで縛られています。

タケルくんは中身が気になるのか好奇心いっぱいの表情です。


木箱の中には古びた黒い靴が入っていました。


「靴と本は燃えるゴミの日ね」


タケルくんはジーっと、靴を見ています。

タケルくんは幼いころにお父さんを亡くしました。お父さんは工場で働いていて機械に挟まれてしまったのです。

お父さんとの思い出がよみがえったのか、タケルくんはまだ靴を見ています。


翌朝、タケルくんは一人で重たい研磨器を捨てに行きました。

タケルくんの家には車もなければ台車もありません。

心配するお母さんに「一人で大丈夫!!」と言い、少し足を引きずるようにしながら重たい研磨器を抱え歩いていきました。

小学生のタケルくんにとっては中々の大仕事です。五十メートル先にあるゴミ捨て場までなんとかやってくると、すでにたくさんのガラクタが捨てられていました。

その中にあった自転車に気を取られ、足下に置いてあった金クズのたくさん入った袋に足を引っかけ転びそうになるタケルくん。

何とか踏みとどまったものの、手に持っていた重たい研磨器を足の上に落としてしまいました。

鉄でできた重たい研磨器の角がタケルくんの足の指の上辺りに落下しました。


「うわぁ!!」っと思わず悲鳴を上げたタケルくん。

でもタケルくんはケロッとしています。どうして痛くないのか不思議そうな顔のタケルくん。


それもそのはず、タケルくんはお母さんが昨日、押し入れから引っ張り出した黒い靴をはいていました。

それはお父さんが仕事ではいていた安全靴でした。靴先には硬い樹脂が入っていて、足の指を守ってくれたのです。

その時はなぜか、お父さんの大きな靴をはいていったのです。今にも脱げそうな靴を引きずるようにして。

お母さんには足の上に研磨器を落としたことを言いませんでした。

言えばお母さんが心配するからです。


タケルくんはもうすぐ小学校を卒業します。人見知りなタケルくんは新しい環境への不安でいっぱいのようです。

今回タケルくんがケガをまぬがれたのは偶然かもしれません。でもタケルくんは今回のことで何かを得たようです。

今でもお父さんが見守ってくれている。そんな気がしたのかもしれません。

翌朝、学校へ向かうタケルくんの背中は昨日までより少しだけたくましく見えました。


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