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SS【トレジャーハンター 】 前編

いつの世も景気の良し悪しに関係なく、選ばなければ仕事はある。


人の嫌がるようなリスクを伴う仕事の中には報酬のいいものもある。


リスクの少なさか報酬の多さかを選ぶとなれば、彼らの多くは迷わず報酬を取りにいく。


それがトレジャーハンターという者たちだ。





ここビストロの村外れには、トレジャーハンターのたまり場になっている酒場がある。

彼らの腕にはトレジャーハンターの印であるシルバーバングルが装着されている。


酒場のすぐそばには、見習いハンターから名の知れたベテランハンターまでが寝泊まりする宿がある。


そこは冒険者の宿と呼ばれ、便利屋のように多種多様な仕事の依頼をこなしながら長期滞在することもできるのだ。




今年三十を迎えるホークは、村の裏山で採れる薬草や、そこで採れる竹を使って弓矢を作り、それを妹と二人で隣町まで売りに行って細々と生計を立てていた。


妹は幼い頃に起きた大火事で手足や顔に重い火傷を負い、視力のほとんどを失なっている。

二人はその時に両親も失った。




ビストロの冒険者の宿は、報酬が高いことで知られており、国中からハンター志望の命知らずが集まってくる。


ホークは酒場の主人から、村の遥か東にあるマリの町に行けば、妹の傷が回復する万能薬が手に入るかもしれないという情報を得た。


ただ、マリの町に売っている万能薬は、よく効くがかなりの高額という噂で、薬草や弓矢を売って貯めたくらいのお金では、入手はいつになるか分からない。


ホークには妹と暮らしながら大きく稼ぐ手段として、ハンターしか残されていなかった。



ある日、意を決して冒険者の宿へやってきたホークは、まず、ハンターの登録料として七万ポッキーを支払った。


ホークにとっては大金で、全財産の半分を登録料としてもっていかれた。


しかも登録すればすぐにハンターとしての仕事がもらえるわけではない。


登録したての者は見習いハンターと呼ばれ、プロになるための試験をクリアする必要がある。


試験とは比較的難易度の低いとされる依頼で、それをクリアすることでプロのハンターとして無数にある依頼の中から、内容と報酬を見て選ぶことができるようになる。


多くの見習いハンターたちは、この最初の試練で行き詰まり去っていくのだ。


命を落とす者も少なくない。


しかし登録料は試験の結果がどうあれ返ってはこない。


ホークは今回の挑戦を妹に内緒にしている。


受付で登録料を手渡すと、代わりに番号の彫られた幅の狭い木製バングルを受け取った。


依頼内容を聞いてホークは耳を疑った。


目的地は山賊や猛獣どもが巣食う死の山と恐れられる場所。

村人たちは決して近寄らない険しく危険の多い山だ。

依頼は、山の中腹にある滝に棲むヌシに会ってこいというもの。

ホークが「会ったことをどうやって証明すればいい」と尋ねると、受付の老婆は「会えばわかる」とだけ答えた。


死の山は食料となる山菜が豊富で、ホークは密かに何度か足を踏み入れたことがある。

だが、これ以上踏み込んではいけないという境界線も何となく分かっていて、今回はそれを越えてさらに進まなければならない。


酒場の主人は、登録料の七万ポッキーは惜しいが滝まで行くのは危険すぎるから諦めろと言った。

それもそのはず、滝にたどり着く前に必ず山賊の棲家を通る必要がある。

山賊は山に入る者の金品を奪い、殺して食料にしてしまうという噂だ。


ホークは翌日の夜明け前に、竹を編んで作った腰袋に酒場の主人からもらった酒瓶を入れ、弓矢とナイフを持って死の山へと向かった。


ホークが明け方にそっと家を抜け出した時、妹は起きていた。

誰かから聞いていたわけではない。

ただ、兄がトレジャーハンターに強い興味を示すのは分かっていたし、プロになるための試験を受けるのも時間の問題だと思っていた。

ある日、家のお金がごっそり減っていたので、ついにこの時が来たかと妹は覚悟を決めた。


止めても無駄と知っていたので妹なりに準備もしてきた。

竹を編んで作った軽くて丈夫な鎧を出発の前日に兄へ渡した。


早足で家から遠ざかるホークの足音を聞きながら妹は無事を祈った。


後編へ続く










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