ショートショート【招かれざる者】
僕がまだ中三の頃、ほぼ毎日のように同じ運動部の仲良しグループで行動していた。
僕を入れて七人。
みんなでジム通いしたり、一泊で旅行に行ったこともあった。
その日は蒸し暑い夏の週末で、みんな僕の家に泊まりに来ていた。
ただでさえ暑いのに部屋には冷房もなく、六畳間と廊下も使って男七人雑魚寝した。
網戸が無く、血を吸う蚊が入ってくるからと窓も閉めきった部屋は、夜でも軽く三十度を超えている。
扇風機を二台回し、学校のことや卒業後の進路を語り合っていた。
外が暗くなり、誰から言い始めたのかも覚えてないが、いつの間にか話題は怖い話に変わっていた。
一人一人順番で過去に体験した怖い話を語っていく。
僕はこれといって怖い体験が無かったので、何か作り話をしようと考えていた。
でもけっきょくみんなを怖がらせるような話は思いつかなくて、代わりに昔読んだオカルト本に書いてあった悪魔の召喚方法を語った。
内容は三面鏡を三つ用意して、それぞれ鏡同士が映るように配置し、その中心に白い小皿を置き、ろうそくを一本立てる。
そして深夜十二時に、そのろうそくに火を灯す。
そうすると鏡の中に無限の廊下が現れ、その奥からろうそくの灯りを頼りに悪魔がやって来るというものだ。
案の定誰も怖がらず、それどころか笑われてしまった。
子供向けのオカルト本に書いてあることだから仕方ない。
しかし一人が「やってみよう」と言った。
僕の家には小さな三面鏡一つと、あと白い小皿にろうそくもあった。
残りの足りない三面鏡は、僕の話を聞いて一番笑っていた奴が家へ取りに行った。
そして僕たちは三面鏡を向かい合わせ、夜中の十二時になったと同時に、その中央の白い小皿の上に立つろうそくにそっと火を灯した。
みんな緊張の面持ちの中、数分が過ぎ、突然・・・・・・ろうそくの火が消えた。
みんなの悲鳴とともに「誰だよ消したの!」と誰かが叫んだ。
僕がみんなを驚かせようとそっと息を吹きかけたのだ。
それから十数年が過ぎて、僕が県外へ引っ越したこともあり、仲の良かった彼らとも疎遠になっていった。
連休を利用し、久しぶりに奥さんと実家に帰省していたある日。
たまたま街で、当時生徒会長をしていた同級生に声を掛けられた。
聞けば年に一度くらいの頻度で、同級生で飲み会をしているらしい。
彼は僕に衝撃的な事実を語った。
僕と同じ運動部の仲良しメンバーが六人とも亡くなってしまっていたのだ。
死因は自殺に、病死、事故とそれぞれだ。
生徒会長と別れて車で帰る途中、僕は亡くなった彼らとの記憶を思い起こしていた。
亡くなったのはあの蒸し暑い夏の週末、僕の家に泊まったメンバーだ。
僕は寝室のベッドに仰向けになり天井を眺めながら、卒業してから彼らとほとんど会わなかったことを少し後悔していた。
横で先に眠っていたはずの妻がいつの間にか目覚め、横になったままこちらをジッと見つめている。
「何かあったの?」
と問う妻に僕は、亡くなった彼らのことを語った。
妻は少し考えるような表情を見せたあと、僕にこう言った。
「聞いたんだね・・・・・・彼らが死んだこと」
「え?」と少し不思議に思う僕に対し、妻は言葉を続けた。
「あの時・・・・・・ろうそくの火を消したのはあなた。ろうそくの火を消した人間は殺さない。そういうルールよ」
薄暗い寝室で、そう語った妻の瞳が一瞬黒くよどんだのを僕は見逃さなかった。
終
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