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SS【復縁】
人間という奴はもろい。
どんなに強がっても、コンクリートの隙間から生える雑草のように強くはない。
他人からは見えない孤独や悲しみがあるのだ。
だから良くも悪くも何かに依存することが多い。
特定のコミュニティだったり、宗教や占い、人によってはお酒やタバコかもしれない。
これからの時代なら仮想空間の中に居場所を求める人が増えるだろう。
ぼくも四十五年生きてきて色々なものに依存してきた。
中でも特に長く依存し続けたものがある。
それは、もう一人の自分だ。
世の中の多くの人は、自分の心に問いかけても答えは返ってこない。
自分が答えるしかない。
ぼくの場合は違う。
ぼくの中には、ぼくとはまったく性格の違う女性が棲んでいて返事をする。
彼女はぼく以外の誰にも心を開かず、姿を現すこともない。
声だけが彼女の存在を教えてくれる。
彼女は時に的確なアドバイスをくれたり、同情だってしてくれる。
彼女もぼくに依存している。
会話が多いわけではないし、とくべつ仲が良いわけでもない。
それでも長年の付き合いでお互いのことはよく分かっている。
二十八くらいの時だっただろうか、安さと交通の便の良さだけで借りていた古い中古の家から引越しした。
その辺りからパッタリと彼女の声は消えた。
どんなに呼びかけても反応は無い。
それから十数年の月日が流れ、ぼくは彼女が消えてしまったと思っていた。
ある日、ぼくの携帯に非通知で電話がかかってきた。
ふだんなら誰か分からない電話には出ずに、あとから番号検索してブロックする。
でもその時は何となく出てしまった。
「もしもし」
返事は無い。
ぼくが通話を切ろうと耳から携帯を離そうとした瞬間、携帯から女性の声が聞こえてきた。
「ひどいじゃない・・・・・・急に居なくなるなんて・・・・・・やっと見つけた」
彼女の声だった。
ぼくはずっと勘違いをしていた。
彼女はぼくの中に棲むもう一人の人格ではなく、ぼくの借りていた家に棲みついていた地縛霊だったのだ。
その日からまた、引越ししてきた彼女との奇妙な生活が始まった。
終
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