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SS【裏切りのコロッセオ】


遠い昔の話。

ある国に頭の狂った王がいた。

絶対権力を握る王は民から多くの税金をむしりとり、その不満が爆発しないように、目くらましとして巨大なコロッセオをつくった。

コロッセオでは毎日のように屈強な戦士たちによる殺し合いが繰り広げられ、時にはライオンや虎と戦う者もいた。

勝者には、命の対価としては決して多くない賞金と食料が与えられ、観客たちにも無償でパンや酒が配られた。

ほとんどの人々は貧しく、働く以外には娯楽も無かったので、コロッセオの観客席はいつも人で溢れていた。


そんな中、王は新しい殺し合いを思いついた。

それは残酷なもので、王の指名した四人がコロッセオの東西南北のゲートから同時に入場する。

一度入場すれば、必ず中で誰か一人が死ぬまで終われない。

しかもその四人は親しい者どうしを選んでいる。

運悪く選ばれてしまえば拒否することはできない。断れば捕らえられライオンの餌になるからだ。

コロッセオで戦う者の名は十日前に民に知らされる。

多くの場合、あらかじめ犠牲にする一人を決めておき、残りの三人がその一人を襲うことがほとんどで、稀にニ対ニになることもあった。

選ばれた四人の中で行われる、かけひきや裏切りを見て王は喜んだ。


そんなある日、一人の近衛兵がコロッセオの残虐なやり方に対して王に異議を唱えた。

男はかつてコロッセオでの望まぬ戦いで友人を手にかけたことがある。

一歩も引かぬ男の態度に腹を立てた王は、「裏切り者め!!」とののしってコロッセオに出場させることを決めた。

王は男の部下にあたる三人に男を殺せと命じた。

それは事実上の公開処刑でもあった。


選ばれた三人は男が手塩にかけて鍛え上げた若い兵士たち。



ついに四つのゲートが開き四人が入場した。

男はその気になれば若い三人を倒せたが、それを望まなかった。

防具を外し、剣を捨て「さあ、ひと思いにやってくれ」と、愛情をもって育ててきた三人の若者に言った。


すると三人のうちの一人が近づいてきてこう言った。

「このまま帰ってください。あとのことは私たちがなんとかします」

「馬鹿を言え! それではお前たちの命は無い!」

「いえ、ルール通りにやるだけです。一度入場したら、この中で誰かが一人死ぬまで続けなければならない」

そう言うと観客席の方を見て頷いた。

何かの合図だったのか、数人の兵士が何かを運んできて、かけ声とともにコロッセオの中に放りこんだ。


それは王だった。


慌てふためく王を守ろうとする兵士は一人もいない。


男の処刑が決まった日、兵士たちは悩んだ末に決めたのだ。

誰を裏切るかを。


王の断末魔の叫びがコロッセオの終了の合図となった。


その後、コロッセオで殺し合いが行われることは無くなり、民を苦しめていた税金はいくぶん安くなった。

そして翌年、処刑を免れた男が王座についた。


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