![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/89339641/rectangle_large_type_2_7b762aa10f67c09378ee9345f84e5ac1.png?width=800)
SS【さあ、ゲームの始まりです】前編1051文字
ぼくは仕事で必要な資格を取るために、電車で遠くの街まで出かけていた。
今日は講習最終日で、翌日は休みだったこともあり、すぐに帰るのはもったいない。
そう思ったぼくは街を散策したあと、居酒屋に立ち寄りホッケの干物で一杯やっていた。
いい感じに酔っぱらい、二軒目は焼き鳥屋でモモと皮を食べながらビールを飲んだ。
そして講習のあったビルの会議室から見えた奇妙な廃ビルを思い出していた。
三階くらいまで吹き抜けになっていて、その中央に何か大きなブロックのような物が塔のように高く積まれている。その上では命綱をつけた人が何かテストでもしているように恐る恐る歩いている。
歩いている感じからブロックは中身が空気のようにも思えた。
店を出ると外は真っ暗で終電の時間がせまっている。
間に合わなかった。
もう駅の構内には人の姿は少ない。
仕事帰りだろうか? たまに駅前から駅裏に通り抜ける人がいるくらい。
まいったなと呟きながらも焦りはなかった。
明日は仕事もないし、近くで宿を探せばいいだけ。
ぼくはベンチに腰掛け、携帯で近くの宿を探すことにした。
時間は遅いが空き部屋の一つくらいあるだろう。
朝食があればなおいい。
座って下を向き携帯をさわっていると、二つ隣の椅子に何かが見えた。
誰かが落としていった携帯だ。
近くのホテルに部屋を取れたぼくは、先にその携帯を交番に届けることにした。
手に取ると突然その携帯が鳴り出した。
本人かもしれない。
「もしもし」
「もしもし!! お願いですからそのまま切らずに聞いてください」
電話の向こうからは、せっぱつまったような中年の男の声が聞こえる。
「あ、あの、ぼく今、駅のベンチでこの携帯を拾って、今から交番に届けに行こうかと思っていたところなんですけど。この携帯はあなたの落とし物ですか?」
「いえ私のではありません。でも、あなたがもし、その携帯を置いて去って行ったら私は奴らに殺されてしまいます。どうか人助けをすると思って少しだけ私に時間を下さい!!」
「おっしゃる意味がよくわかりませんけど。ぼくは今から宿に行かないといけないので、失礼します」
「あーー!! 待って下さい!! 少しでもいいんです。私に時間を下さい!!」
ぼくは新手のサギか何かと思い電話を切りかけたが、電話の相手が本当に困っている可能性もあると思い、もう少しだけ話を聞くことにした。
駅の構内ということもあり、あちらこちらに防犯カメラが設置され、まだ駅員さんも歩いている。下手な動きをしなければ犯罪に巻きこまれることもないだろうとぼくは思った。
終
後編へ続く
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?