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SS【引き際を知った男】


この国は人口が減り続ける一方で、四人に一人が高齢者となっている。

高齢者ドライバーの踏み間違えや逆走などのニュースを目にするたびに、引き際の大切さということを考えさせられる。

どんな理由があろうと、人の命を奪うようなことがあってはならないからだ。


ぼくはもう動けない。今にも意識が途切れそうで、目を開いているのか閉じているのか、自分でもよく分からない。

今度こそと思った百五十回目のプロポーズも、彼女の心には響かなかった。

次はどこでデートの待ち合わせするか聞いたぼくに対し、彼女の返した言葉は「法廷で」。

ぼくはデートに向かう途中でコンビニに立ち寄った。

店から出てくると引き際を見失った高齢者ドライバーがアクセルとブレーキを踏み間違えてぼくに突っ込んできた。


ぼくは最後の力を振り絞って彼女のSNSアカウントにメッセージを送った。


「ごめん、もう会えなくなった」


すると珍しくすぐに返信が届いた。


「助かります」


これが引き際を見失った者の末路なのだろう。

ぼくは自分の身体から流れてできた大量の血だまりを見つめながら、引き際を知らなかったのは自分自身だったことにやっと気づいた。


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