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SS【最悪の事態】
ぼくはいつでも最悪の事態を想定している。
昨今は自然災害、疫病、有事、輸入ストップ、更なる円安などが危惧され、未来に暗雲が立ち込めている。
外国では深刻な食糧危機に陥っている国もある。
それを他人事と捉え、何も備えをしていなかったら、もしもの時に泣くのは自分なのだ。
自分だけならまだしも家族まで苦しんでは困る。
奥さんに呆れられても庭を畑にする準備を始めているし、しばらくの間だけでも家族が生きていける水や食糧は備えている。
家族に白い目で見られようとも、最終的に家族を守れればぼくは満足だ。
だから、奥さんにもう宅配はやめろと言われても、野菜室に重たい玄米を入れるなと言われても、ぼくはやめない。やめるどころか備蓄は増える一方だ。
この先、円安は進み、お金が紙くず同然になる未来が予想できる。
それなら、その紙くずになるかもしれないお金を、サバイバル生活を乗り切るために役立つアイテムに変えておいた方がいい。
しかし、それから数年たっても食糧危機も有事も起こらなかった。景気は悪かったが、それでも普段の生活に困るほどではなかった。
奥さんは、ぼくがもしもの備えで使ったお金の総額を知り、ものすごく腹を立てた。そして娘たちと家を出て行った。残った貯金と一緒に。
ぼくに残ったのは古びた家と、大量にためこんだ非常食。そして誰も手入れしなくなり荒れ果てた畑だった。
ぼくは最悪の事態を想定していたはずだったのに、気がつけば家族に愛想をつかされるという最悪の結末を迎えた。
ぼくは今、一人で部屋にいる。不景気で仕事を失い、お金もなく、電気もガスも止められてしまった。
でもぼくには備えがあった。
ソーラーランタンに照らされた部屋の中で、ちょっと高価な干し肉を味わいながら、たくさん備蓄していたウイスキーを、たくさん備蓄していたミネラルウォーターで割って飲んだ。
ぼくは呟いた。
備えておいてよかった・・・・・・。
終
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