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SS【ぶら下がり健康器】
ぼくは部屋の片隅にあるぶら下がり健康器を見て思った。
君のようになりたいと。
ぼくは三十代まで本格的に身体を鍛えていた。ジムに通ってバーベルやダンベル、それにマシンを使って筋力アップに励んでいた。
筋トレが趣味だったぼくの目には、ネットはもちろん、スポーツ店やホームセンターなどに売られている健康器具のどれもが魅力的に映った。
仰向けで寝て足を金魚のように左右に振るものや、ベンチプレス用の器具は部屋の三分の一を占拠した。バーベルやダンベル用に積み上がられた鉄のプレートは、そのうち2階の床が抜けるのではと心配になったほどだ。安物のエアロバイクは無駄に音がうるさかった。ハンドグリップと腹筋用のトレーニング器具は何個もあった。プッシュアップバーも三個、今まで買った健康器具は三十はあるだろう。
しかし、ぼくがそれらを使わなくなると奥さんは次々に、まるで根本から存在を否定するかのように無慈悲に捨てていった。
今部屋を見渡すと捨てられずに生き残ったのは、百均で買った足つぼボードと高さの調節できる安定感の無いプッシュアップバー、それにぶら下がり健康器だけである。
中でもぶら下がり健康器は二十五年も生き残っている。
今でも毎日ぶら下がっているが、ぶら下がっているのはぼくでも奥さんでもなく洗濯物だ。
モンキーレンチかスパナ一本あれば数分で解体して不燃物として捨てられるといのに、ずっと生き残っている。
君は凄い!!
誰もぶら下がらなくなった今も、アウターにポーチ、持ち手の長いコロコロ。時には布団がかかっている時もある。
ぼくは君のようになりたい。
もしもぼくの会社が今より自動化が進み、会社が早期退職を打ち出してきたとしても、「君は我が社のぶら下がり健康器だ。だからいつまでも会社にぶら下がっていてくれ」そう言われるような人材を目指そうと思う。いや、そもそも本業以外のスキルがあれば、それを活かして生きていけるはずだ。
ぼくは今、ぶら下がり健康器になるために頑張っている。
終
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