見出し画像

SS【形見の砂時計】


ある日の休日。

夜明け前だというのに物音で目が覚めた。

見知らぬ誰かが部屋の中にいる。

土足で入ってきているところを見ると、招かざる客のようだ。


一人暮らしのぼくは、目覚めると三人の男に囲まれていた。

リーダーらしき男が鋭利なナイフをちらつかせてぼくを威嚇し、「縛れ!」とあとの二人に命令した。


リーダーらしき男はぼくの首にナイフを近づけこう言った。


「滅多刺しにされるか、素直にあり金を出すか選べ!」

ぼくは困った。

あり金と言われても、家中かき集めたって三百円くらいしかない。

この強盗たちは頭が悪いのか完全に入る家を間違えている。

ここは貧乏人の家だ。

かといって三百円渡してこいつらが納得するだろうか?


ぼくが考えているうちにリーダーはしびれを切らして、机の上にあった三分計れる砂時計を手にとった。

ぼくが大好きだった元軍人でヘビースモーカーな爺ちゃんの形見だ。


リーダーは砂時計を反転させ、机の上に乱暴に置いた。


「この砂がぜんぶ落ちる前に金のある場所へ案内しろ!」


しかし、砂時計が反転した瞬間、ぼくの意識は遠のいた。


そこから先のことはよく覚えていない。


気がつくと三人の強盗が倒れていて、強盗から盗ったタバコをふかすぼくがいた。


三分が過ぎ、砂時計の砂がすべて落ちた。

ぼくは吸ったことのないタバコの煙に咳き込んだ。そして倒れている強盗を見て恐ろしくなった。


不意に誰かの気配を感じて机の方へ目をやると、爺ちゃんが立っている。


爺ちゃんは片手の親指と小指だけを立て、その手を耳に当て合図している。

通報しろってことのようだ。

呼び出し音が鳴り始めると、すでに爺ちゃんの姿は消えていた。

久しぶりに爺ちゃんと再会したぼくは不思議と恐怖が和らいだ。


警察にはありのままを話すつもりだけど、きっと信じないだろう。

砂時計の砂が落ちている間だけ、爺ちゃんがぼくに乗り移って強盗を制圧したなんて。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?