SS【さあ、ゲームの始まりです】後編1753文字
「で、どうしてほしいんですか? 交番に届けておきましょうか? 面倒なことなら、する気はありませんけど」
「電話を切ったらまず最初に、ホーム画面右下のゲームのアイコンをタップして開いてほしいんです」
「ゲーム?」
「はい。開くとパズルゲームが十種類くらい表示されるはずです。その一番下にある 人間が落ちる っていうゲームをプレイしてほしいんです」
「なんのために?」
「もちろんあなたにメリットはあります。これは嘘でも冗談でもない真剣な話です。なぜなら深夜零時まで誰もプレイする人が現れず日付が変わってしまえば、私と家族はある組織の人間に殺されます。ある組織とは私が以前属していた組織のことです。私の電話を受けたあなたがプレイヤーに選ばれたのです。もちろん拒否することもできますが、私が生き残ることができれば、あなたにはそれなりのお礼はするつもりです。あなたは私にとって命の恩人ということになりますから」
「は、はあ。ゲームをするだけで命の恩人ですか?」
「はい。そのゲームは積み上げられた形の違うブロックを指でタップして消していって、ブロックの上にいる手足を縛られた私を無事に下まで降ろすゲームです。失敗すれば私はブロックと一緒に高所から落ちて死ぬことになりますが、あなたを恨むようなことは絶対にしません。零時まで残り十分です。これは私が手に入れた最後の貴重なチャンスです」
「なぜゲーム内のキャラが落下してあなたが死ぬんです? ありえないでしょう」
「そう思われるのは当然だと思います。私があなたの立場なら信じていないと思います。しかし私は現実に今、地震がきたらあっという間に崩壊しそうな不安定に積み上げられたブロックの一番上に、手足を縛られ寝転んでいます。すぐ横にはあなたと話している携帯電話が置いてあり、離れた安全な場所には、この悪趣味なショーを楽しみにしている十数人の客と、中からは開けられないようになった別室からショーを見守る私の家族。客と組織の人間は、どいつもこいつも悪趣味な仮面をかぶっています。すいません、もう時間がありません、ゲームを始めて下さい」
「はあ、はあ・・・・・・ハッキリいって自信はないですよ」
「あの、すいません。こんなことに巻き込んでしまって。でもあなたに危害が加わるようなことはないと思うので、私と家族のためにダメ元でいいので思いきってやってください」
「はあ、はあ」
「大丈夫ですか? 息が苦しそうですよ」
「はあ、はあ・・・・・・もう大丈夫です。あの、一つ聞いていいですか?」
「はい」
「今、下にあるブロックって中身は空気ですか?」
「ええ、おそらく。空気で膨らませたブロックをクロスボウで貫いて割っていくんだと思います。現にクロスボウで狙いを定めている奴が見えますから」
「ぼくがゲーム画面でうまくブロックを割っていけば、大ケガせずに下まで降りれると」
「はい、もう始めて下さい!! 時間がありません!!」
「そういうゲーム、苦手なんですよ」
「いや、もう時間がないんです。お願いします!!」
「ところで、けっこういい体してますよね」
「え?」
「ブロックに寝転ぶあなたのことです。おそらくぼくよりずっと強い。ぼくは救出や脱出を専門にしていますが、あなたはおそらく戦闘タイプ。それもそうとう腕が立つのでは?」
「え? え? 近くにいるんですか?」
「今日はたまたま横のビルで講習を受けていましてね。変な建物だとは思ってましたが、やはりここでしたか。あなたのご家族は建物の外に逃しました。さあ、どうします?」
「よし!! 私はついている!! ナイフ持ってますか?」
「ええ」
「私の手の届く位置に投げて下さい。あとは自分でやります。あなたは安全な場所に隠れていて下さい。あっ!!」
「これはサービスですよ。クロスボウは奪っておきました」
「どこのどなたかは存じませんが、ありがとう・・・・・・」
「敵はまだ沢山いますね。どうやら彼らはあなたををここから出さないつもりのようだ」
「ここで逃げても奴らは組織の裏切り者である私を絶対に許さない・・・・・・私はもう汚い仕事はしたくない。私のことは忘れて逃げてください」
「これも何かの縁です。明日は休みですし、ここまで来たらとことん付き合いますよ・・・・・・。さあ、ゲームの始まりです」
終
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