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Photo by
mamezouya
SS【見えない魔獣】
女の飼っていたワンコが亡くなって早一年。
半世紀以上生きてきて、今まで家にペットの居なかったことはない。
ワンコが居なくなって二ヶ月ほど過ぎた頃、女の家にはいつの間にか新しいペットが棲みついていた。
女にも訪ねてくる人にも、その姿は見えない。
それでも確かにそのペットは存在する。
なぜなら足音もするし、誰かが来ると唸ったりもする。
寝る時は大きないびきもかく。
生肉を皿に乗せるとすぐに無くなった。
女が待て! と言うと肉は無くならなかったが、よし! というと、肉はあっという間に小さくなり消えていった。
女は一人暮らしで寂しかったからか、その目に見えない居候を受け入れた。
天国へ旅立ったワンコが連れてきたとでも思ったのかもしれない。
ケルちゃんと名前もつけた。
よほど大きいのか歩くと床がミシミシと音を立てるし、肉を食べる速さも尋常ではない。
女は地獄の番犬ケルベロスから取ってケルちゃんと呼ぶようになった。
ある日、女が仕事から帰ると部屋の窓ガラスが割れている。
部屋中に荒らされたような跡もあった。
通報して調べてもらうと、どうやら指名手配されている殺人犯が侵入したようだ。
しかし、この部屋を最後に消息を絶っているらしい。
警察が帰ったあと、女は買ってきた大きな肉を皿の上に乗せた。
「ケルちゃん!!」
女が呼ぶとケルちゃんが近づいてきたが、今日は、よし! と言っても肉は動かないし小さくもならない。
そのうちイビキをかいて寝てしまった。
「ケルちゃん何か食べたの?」
その後も殺人犯は見つからなかった。
ケルちゃんは三日ほど食べなかったが、その後は何事も無かったかのように、また女の買ってくる肉を食べ始めた。
終
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