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SS【断罪者と捕虜】
ぼくには付き合って三年になる彼女がいる。彼女とは遠距離恋愛でたまにしか会えない。
彼女はいつも不器用なほどまっすぐだ。
それに一度自分でやると決めたら、どんな障害にもくじけず最後までやり通す意志の強さを持っている。
久しぶりに会えたものの、あいにくの悪天候で彼女の家にこもっていた。
テレビは悲惨な戦争の話題ばかり。
コメンテーターは義勇兵たちの目を覆いたくなるような悲惨な現実を語っていた。
暴君の支配する大国の捕虜となれば、歪んだ正義の断罪者となった彼らから、筆舌に尽くし難い拷問を受けることになると。
過去に捕虜となった兵士が戻ってきた時は、歯はすべて折られ、髪の毛は真っ白になり、人が変わったように生気が無くなっていたという。
それを聞いた彼女は「怖いね」と言って、それから口数が少なくなった。
ぼくは彼女のすすめで、家の車庫にあるマッサージチェアに横になり眠った。
ここへ来る前にもう一人の彼女と遊び、疲れがたまっていたのですぐに眠りに落ちた。
ぼくは二股している。
彼女はそういうのが絶対許せないらしい。でもぼくはバレなければいいと思っている。
少なくてもその時まではそう思っていた。
目覚めると、荒縄で手足と腰の辺りをマッサージチェアに縛りつけられていた。
口には猿ぐつわがされ、首もギリギリ息ができる程度に結束バンドらしきもので固定されている。
彼女は無表情で、ぼくが他の女と仲良くデートしている所を見たと言った。
ぼくが寝ている間に携帯も調べたらしい。
ぼくは必死に助けを求めようとしたが猿ぐつわのせいで声にならない。
身体を縛っている荒縄は、ぼくの動きを完全に封じていて緩む気配すら無い。
狂気の断罪者となった彼女は、納屋から斧とナタ、それから漬け物石を持ってきて言った。
「どれにする?」
それから先のことは思い出せない。薄れゆく意識の中で、最後にぼくの視界に映ったのは、穴の上からスコップでぼくに土をかける悪魔の姿だった。
ぼくはあの時、テレビを観て思っていた。
ぼくだったら捕虜にならないようにうまく逃げると。
でも今、目の前が真っ暗になって気づいた。
彼女は狂気の断罪者で、ぼくは彼女と出会った時から、すでに捕虜だったのだと。
終
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