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SS【身代わりロボット】

俺は十年前にある思いきった挑戦をした。

その頃はすでに子供たちが家を出ていて、妻との関係は冷めきっていた。

家庭内別居中でほとんど口をきくこともない。

俺は密かに関係を持っていた浮気相手と一緒に暮らすために、身代わりロボットを注文した。

見た目も、歩き方も、声も、本物の俺と区別つかない。

皮膚も髪も爪も人間そのものだ。

まるで本物の俺のように、風呂にも入るし散歩にも出かける。

夜になれば布団に入って横になり、まぶたを閉じてスリープ状態になる。

電池寿命は十年。


あれから十年。

妻と俺の身代わりロボットはちゃんと生活しているだろうか?

妻にバレていないだろうか?


俺の身代わりロボットは、あと数日で電池が切れる。

電池残量も、妻とロボットとの会話も、遠く離れた愛人宅でオレンジウォッチを見て知っていた。


十年ぶりに我が家に帰ってきた。

今日は朝から妻が出かけていることは知っている。

ササッと家に入り、電池交換をするために身代わりロボットを探した。


リビングに入ろうとして、思わず叫びそうになった。

そこには俺の身代わりロボットと二人の妻が居た。

妻は、もう一人の妻の背中から何か取り出している。


俺は訳の分からないままそっと後ずさりして家を出た。

愛人宅への帰り道、俺はすべてを悟った。


妻も身代わりロボットを使っていたのだ。

俺が身代わりロボットを使っていたことも妻は知っていた。それも、おそらくかなり早い段階で。

俺の家ではロボット同士が冷めた夫婦を演じ続けていたらしい。

そして本物の妻は俺と同じく身代わりロボットの電池を交換するために戻ってきたのだ。


愛人宅へ戻ると、彼女はキッチンでうつ伏せで倒れていた。

慌てて声をかけても反応はない。

心臓も止まっている。

俺はふと妙な違和感を感じた。

彼女の服をずらし背中をよく見ると小さな小さな穴が開いている。

俺はウエストポーチからピンを取り出し小さな穴を強く押した。

カチャっという小さな音がしたかと思ったら、皮膚が一部持ち上がり、中の電池が顔を見せた。

俺は気づかずにずっとロボットと浮気していたのだ。


なぜこんなことになったのか・・・・・・。

俺は自分の身代わりロボットに入れるはずだった新しい電池を「彼女」にセットした。

その晩、彼女がこう呟いた。

「あなたの電池もそろそろ注文しないとね」





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