自作詩をいくつか、そのじゅうに。『幻想を見させてもらい』
『幻想を見させてもらい』
誰にも必ず、その瞳の奥に幻想を持っている。
君にしか見えない世界が、君にしか感じ得ない感覚が、君にしか分からない気持ちがある。
それを知りたいと思うこと、それが愛かもしれないね、なんて綴ろうとしてハッと気づく。
愛という概念自体が、実に人によってバラバラな価値観で、それこそ幻想であることに。
例えば僕と君が愛し合える瞬間が来たとして、二人の見ているものは果たして同じなのだろうか。
そうではないだろう。
二人が見てるものは、それぞれに幻想を纏い、そこには仄かな期待と躊躇いがあるはずだ。
それでも歩み寄りたい。
それでも相手の髄まで知り尽くしたい。
そう思った時に僕らに待ってることはなんだろうか。
幻想の中に微笑む君は、輝かしくて、なんだか、この世界には相応しくないくらいだ。
この世界はあまりにも残酷すぎてしまい。
僕らはどうやって理解し合おうか。
どうやって互いを信じていこうか。
幻想を、どう、現実に組み込んでいこうか。
そんなことはやっぱりわからない。
でも、君のことを少しずつ知っていって、なんだかお互いに悲しい過去を持っていることを、探り合いの中で静かに悟っていって。
それでも二人で横に並んで歩く道が見えたなら。
幻想を見させてもらい。
人生を、望めるだろう。君との人生を。
『知らないけどさ』
知らないけどさ、考えてみるよ。
僕はこんな狭い街にずっと住んでいるけれど、世界は絶対に広くて、いっぱいあるんだよ。
陽気な音楽が聴こえる市場が。
近未来としか思えない光り輝く都市が。
大きな大きな映画館が街を映すそんなジオラマが。
足りないけどさ、考えてみるよ。
ジュラシックパークでしか見たことないけど、恐竜って昔は本当にいたんでしょう?
バックトゥザフーチャーでしか見たことないけど、タイムマシンって本当はあるんでしょう?
E.T.でしか見たことないけど、宇宙人って本当は今もどっかで見守ってんだよね?
もっともっと、考えてみるよ。
愉快な話を書くねって、思わず頭をかき撫でられたこと。
やるじゃんって、拍手だとか、褒め言葉だとか、なんだか奇跡みたいな幸せがあるってこと。
好きだよって、自分と同じ考えをしてる人がいて、音楽の趣味もちょっと似てて、ああ運命だって信じられる場合もあるということ。
妄想じゃないさ、考えてみるよ。
いつしか忘れかけてしまっていたかもしれないけど、とても美しい森があること。
いつしか興味を離しかけてしまっていたかもしれないけど、とても美しい夜空があること。
いつしか自ら限界を決めかけてしまっていたかもしれないけど、とても美しい夢があること。
迷うこともある、考えてみるよ。
大切なものはもっと大切にできるよ。
素敵なものはもっと素敵にできるよ。
終わりなんて、無難なんてない、いくらでも、いくらでも、自分を愛することができる。
考えてみるよ。
そうやってさ。
『愉快になりたがったぼくらのために』
楽しい歌を、素直に聴けないんだ。
でも、そんな僕らが一番実は素直なんて、面白い気まぐれじゃない?
そう笑っていた君と、僕は、今日も色々と考えていた。
考えるってさ、とても大事ね。
でも、悩んじゃってるのも最近は疲れたし飽きたもんだから、楽しく行こうじゃん。人生だもん。
……ところで、僕らは少し変な仕事をしている。
街の端っこの、掲示板に、毎日ポスターを貼る仕事だ。
そこには特別なメッセージが込められてたり、してなかったりする。
電話が来る。今日も依頼だ。
行ってきてくれる?
君がそう言うので、僕は身支度を整える。
扉を開ける前に、いってらっしゃいの声が聞こえた。いってきますと答える。
街を歩くと、当然ながらいろんな人が喋っているのを見かける。
難しい話や、たいしたことのない話、歩いてるので一瞬聞こえてはまた話題が変わる。
ふと上を見上げると、空が晴れていた。まっすぐな青色だ。綺麗だとか云々よりも、とにかくまっすぐさを僕は感じた。
僕はまっすぐに、この道を進みたい。
そう思いながら、また、一瞬聞こえる話題に耳を貸す。
知らないところで、知らない人の人生が動いている。当たり前だけれど、意外と掴みにくい感覚だと思う。
掲示板に辿り着く。
ポスターを貼る。今日の依頼は、この真っ白な紙を貼ることだ。
正直言って目的は分からない。しかし、目的のよく分からない仕事というものは、思ったよりもよくあるもの。
なのでそこを疑問には思わず、大事なのは目的は自分で見つけるべきだということだと、なんとなく言い聞かす。
世界には全ては用意されていない。
用意するのはいつだって僕らだ。
このポスターだって、僕らが用意したから、今そこにある。それは誇りに思って良いだろう。
しかし、このポスターに込められた意味は、注文した人にしか今のところは分からない。その人が用意しているのだ。
すると、電話がかかってきた。君からだ。
ごめんね、もう一枚あったの。
申し訳なさそうに喋る君ではあったけど、別にたいした距離じゃないし、散歩のような気分で楽しめば良い。
こうなったには、こうなる理由があったのだ。例えばこの時間をもう一度楽しむためのチャンスなのかもしれない。
もしくは、理由なんてなくても、こうなったには、こうなったなりの楽しみ方があるということで。常に用意するのは僕らである。
マイナスをプラスに変える、なんて気軽に言うけれど。
それは難しい。
つらいことはつらいし、かなしいことはかなしい。
でも、そこで全て投げ出すか、歩いてゆくか。
それにはやっぱり、僕らに選択権があるのだ。
取りに帰る。
そしてもう一枚の紙を見たとき、僕は注文者の目的を察した。なんて、面白い人なんだろうと小さく笑った。
次の日。
白いポスターは、鮮やかにレインボーを纏い、それは広場の人々を喜ばせるには十分で。
隣には一枚。
ご自由に、このポスターにお絵描きなさってください。
それだけ書いてあった紙。
……楽しい歌を、素直に聴けないんだ。
でも、そんな僕らが一番実は素直なんて、面白い気まぐれじゃない?
そう笑っていた君と、僕は、今日も色々と考えていた。
考えるってさ、とても大事ね。
でも、悩んじゃってるのも最近は疲れたし飽きたもんだから、楽しく行こうじゃん。人生だもん。
無理して笑う必要も、無理して泣く必要もない。
無理して話す必要も、無理して話さない必要もない。
理由をつけなくても良いし、理由をつけたって良い。
とにかく、愉快になりたがったぼくらのために。
それなりに世界は優しくあろうとするのだ。
僕らが世界を優しくする。できるよ。
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