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「きっと大丈夫」夢なし人間になった私が、自分の夢を取り戻せた出逢い/春香さんのLife story

2024年6月。はるちゃんこと黒澤春香さんは、バリスタとして3年8ヶ月務めた職場を退職しました。大好きなお客さんも、スタッフもいるお店を巣立つ最終日。その日に見た光景は、彼女のこれからの人生を照らし続けてくれるものだったと言います。

「働く楽しさと、仕事への向き合い方を学んだ時間でもあり、今までのことが全部無駄じゃなかったと思わせてくれたこの経験を忘れたくないんです。」

自分の心地良さを大切に、人生の第二章を進む感覚がある今。この先迷うことがあるとしても、今日のこの想いを見返すことで、大切にしたい自分に立ち戻る道標となる。そんな等身大のはるちゃんの「今」を綴ります。

黒澤春香(Haruka Kurosawa)1997年生まれ。目の前の人が喜んでくれる瞬間が大好きで、パティシエ・似顔絵やイラストの仕事を経験。自分に合う生き方を模索し、バリスタとして活動しながらパティシエも続けることを決意。
バリスタの経験を生かして、サブスクサービス「ものがたり珈琲」のSNS運用、毎月のカフェイベントの店長としても活動している。


パティシエの夢を叶えた後、夢なし人間になった


━━3年8ヶ月前。カフェ(猿田彦珈琲 恵比寿店)で働こうと思った最初のきっかけは?

当時は明確な将来のイメージとかはなくって、なんとなく「ラテアートがやりたい」「カフェで働きたいな」って思ったのがきっかけでした。

前職のパティシエの仕事は職場の働き方が合わなくて、”自分の身体が壊れてしまう。このままじゃ続けられない”と思って、後のことを考えずに辞めてしまって。無職になってから「とりあえずやってみたいことをやってみよう」って思った時にご縁があったのが【猿田彦珈琲】だったんです。

入社初期の頃

配属された恵比寿本店は入社してから初めて足を運んだんですけど、もともと別の店舗への配属が決まっていたところ、当時の人事の方が「くろちゃんに合いそう!」って言ってくださったのが始まりで。その一言がなかったら今の私はいなかったから「運命だったな」って。

入社してからは、パティシエの時との接客とはまるで違って驚きの連続でした!



カルチャーショック!接客が苦手で泣いてばかりいた1年目


注文されて提供する前職とは違って、猿田彦珈琲では一人ひとりのお客さんに合った+αのコミュニケーションをとる接客が日常だったんです。

そんな人との関わり方が素敵だなって、理想だなと思った反面、その頃の私は、人は好きだけど初対面の人は苦手だったし、顔色を伺って疲れちゃうタイプだったんですよね。

だから正直「大変なところへ来てしまった…これは頑張らなくちゃ!」って思ったし、最初の3ヶ月くらいは思ったように人と関われなくて、悔しくて泣いてばかりいました(苦笑)


━━なれたらいいなという気持ちはある一方で、それ以上にプレッシャーも感じていたんだね。

そうですね。テンプレート的な会話しかできない様子を見て、先輩に「ロボットみたいだね」って言われたこともあって。自分のできなさに落ち込んでいた時期は「せっかく来てくれたお客さんを笑顔にできてないな…」って、人と関わることが億劫になっていたんですよね。

自分のダメなところばかりに目が向いてた

━━今のはるちゃんの姿からは想像できない姿だけど、何が変わるきっかけになったの?

入社して半年後くらいかな。当時の店長に「お客さんと上手く話せている感覚がないんです」って打ち明けてみたんです。

そしたら「今日一緒に入っていて、黒澤さんと話しているお客さんに嫌な顔している人は一人もいなかったし、笑顔になっている人がいっぱいいましたよ」って言われて。その店長の一言が号泣するくらい嬉しくって。

自分の目で見ていた世界は、周りの人から見てそうではなかったし、私にもできていたことはあったんだって初めて知れた瞬間で。自分自身で見える世界を暗くしていたことに気付かせてもらえたし、また頑張ろうって思えたんです。

店長のように、自分のことをちゃんと見てくれている人がいるってこんなにも頑張れる原動力になるんだと感じた時に、私も、相手をよく見て、その人のためになる言葉を伝えられる人で在りたいなって思わせてもらえました。


━━はるちゃんにとって、その店長はロールモデルのひとりだったんだね。素敵な人ばかりいる職場だったことが伝わってきたよ。

そうなんです!歴代2人の店長はタイプこそ違ったけれど、お店やスタッフのことを考えてくれる方ばかりで、一緒に働く人にも恵まれたと思います。

1年目は正直、指摘されること自体が悲しくて、掛けられた言葉の背景とかそこに込められた願いとか想像する余裕もなく「なんでそんなこと言うんだろう…」って。ただただ悲しい気持ちでいっぱいになってしまっていたけれど、経験を重ねるにつれて、当時の上司が私に何を伝えたかったのかようやく分かるようになったんです。

そんなふうに、目の前のことを必死でこなした1年目。2年目は先輩として教える側、お店のことを考える側の大変さにぶち当たった感覚がありました。



2年目の葛藤「伝えたいこと、この言葉で合ってるかな…?」


後輩ができた2年目は「先輩として言わないといけないけど、言葉選び間違えてないかな?」とか、ちゃんと伝わってるかなって悩んでばかりいて。今考えると、好きなお店だからこそより良くしたい”自分の想いと同じもの”を他の人にも求めすぎちゃっていたと思います。

一緒に働く人が楽しめないとお客さんも笑顔にできないと思いながら、求めていることが伝わらないことに葛藤したり…。


━━まるで1年目のはるちゃんと2年目のはるちゃんが対面しているみたい…!

そうかもしれないです。自分と相手の強みも違うし、思っていることも違うのに、この時はまだ自分のことも相手のことも知り方が分からなくて模索していたんだと思います。いろいろ試行錯誤はしていたけれど、でも、この悩みも店長(2人目)のおかげで変わることができて。

カフェ2年目の頃

店長は、いつも営業時間外にもわざわざ時間をつくってコミュニケーションをとってくれたり。何かあったら聞いてくれる、話ができる、信頼できるから、どんな言葉でも私を想って伝えてくれることだと感じられていたんです。

当たり前のようだけど、相手が思っていることを相手の目線に立って聞くことは、信頼にも繋がるし大切だなってちゃんと実感できて。

店長との関係性でそれを感じてから”知る姿勢”を大事にできるようになって、丸2年が経つ頃にようやく自分の得意なことと相手の得意なことの違いとか、それを活かすことができる道を考えられるようになっていったんです。


━━はるちゃんの悩みや思考の根底には、ずっと「より良くなるために」という願いがあるように感じるなぁ。それに対して、自分一人で向かおうとする姿勢から、みんなで一緒にっていう”もっと周りの人と楽しく!”を求めたくなったのかもしれないね。

そう思えたのは、ここのカフェでの出逢いがあったからこそだなって思います。恵比寿本店は、たくさんお客さんが来る店舗ではあったけれど、人と深く関わることも出来る場所だったから。最初にそれを強く感じたのは、いつも仕事で利用してくださるある人との出逢いでした。



人と人として関わりたい/新しい理想を思い描く


定期的に来て下さるその人とは、気づいた頃からよくお話するようになっていたんです。ある日、私の仕事終わりとその人の仕事終わりが重なって、自然な流れで一緒にテーブルを囲んで、気が付いたらこれまでの人生について話をしたりしていて。

その時「これだ!」って思ったんです。スタッフとお客さんという関係性よりも、人と人とでありたいと願っていた光景が、今ここにある!って。

その人に「はるちゃんと出会えてよかった」と言われた時、それまでどこかで「理想の関係性の築き方があっても、私にはできないかも…」って思っていたけれど、どこにいても自分の捉え方次第なんだなって気付いたんです

その人とできたから、もっと他の人とも、もっと自分が心地良いと思うペースで関係をつくっていきたいなって思いが強くなりました。


━━それを聞くと、わざわざ辞めなくても、この場所でもできたのでは?と思ったんだけど、なにか他に理由がありそうだね?

もっと”自分の心地良さ”にフォーカスしはじめた感覚があるんです。

自分がどんな時間にワクワクするのか考え続けているなかで、私は人と関わる時間はもちろんだけれど、珈琲を淹れる時間だとか、ラテアートをする時間、お菓子を作る時間とか「ものづくり」をしている時間が好きだって気付いて。

確かに、今の職場は恵まれていたし良い人も多い。これから私がやりたいことを伝えて、ここでも叶えられることはあったと思います。でも、ものづくりのことを考えた時、私は自分でお菓子も作りたいし、自分がこだわったものをお客さんに届けて行きたいって思ったんです。



パティシエを辞めた私には、何もないと思ってた。でも、


私、実はパティシエを辞めたことがずっとコンプレックスで。お菓子が作りたくて夢だったパティシエという仕事についていたのに、働き方が合わなくて心と身体がしんどくなってしまって…辞める選択しかできなかった。

嫌いで辞めたわけじゃなかった分、それしかやりたいこともできることもなかった私には「自分には何もなくなった」という感覚が根付いてしまっていたんです。

そんな自分が分からない状態でいたけれど、カフェで働くうちに人に喜んでもらえる瞬間が好きなこと、お菓子をつくる時間と同じくらい、珈琲を淹れる時間も楽しいと感じていることに気付いていったんです。

手作りの誕生日ケーキ

ここでの経験をきっかけに「もうお菓子は作れないと思っていたけど、環境を変えたら”好き”のままでいられるかもしれない」「もっとお菓子も作りたい!」そう自分の好きを再確認することができて

それから、もうひとつ背中を押すきっかけになったのは、逗子にある『アンドサタデー』さんとの出会いでした。

andsaturday coffee & cakes
「土曜日だけの珈琲店」としてオープンし、6年半の営業を経て、2024年にコーヒーとケーキの新店舗をスタート


「週に一回だけの営業?そんな選択もあるんだ!」って、素敵だなと思ったんです。今だったら、今と自分のために新しい選択ができるのかもしれない。好きなものを好きでい続けたいからこそ、自分の心地良い環境をちゃんと選んであげたいなって思ったんです。


━━「ここでダメだったからもう無理だ…」と思った過去の経験から、環境や捉え方を変えたらできるかもしれない。むしろ、それを探して選びたい!と思えるようになったことって、すごい変化だよね。

ですね。大切なものを守る覚悟ができたのかもしれないです。



最終日の光景


━━覚悟と挑戦。いろんな気持ちを抱いて迎えた最終出勤日は、どんな一日だった?

いやー、走り切りましたね!!私が堂々と「こんな未来を描いてる」って伝えられるようになったのも職場のおかげだからこそ、最後の1ヶ月で感謝を伝えきらなきゃ!って思ったんです。

そんな気持ちで行動していたら、ラストウィークは常連さんも友人も、これまで関わりのあったスタッフさんも来てくれて。最終日はオープンからクローズまで1日を通して本当にいろんな人が来てくれて、言葉を掛けてくれて、プレゼントまでくださって。

”嬉しい”って言葉でくくるのがもったいないくらい、胸いっぱいになる気持ちを頂けた。感謝を伝えるつもりが、また返しきれないくらいいろんなものをもらって、その出逢いがさらに自信にもなったんです。

最終日、会う人みなさんとの時間が幸せすぎました!


お客さんから辞めることに対して否定的な言葉を掛けられることもなかったし、寂しいって言ってくれたり、なかには涙を流してくれる人もいて。

仕事を辞める怖さはあったんですよ。居心地の良い環境だったからこそ、今の職場を手放して自分が頑張れるのかって。そこを離れてまで…とも思ったけれど、それさえも次に進むためのバネにさせてもらえる時間でした。


━━はるちゃんが応援されるのは、はるちゃん自身が出逢った人にそうしてきたからなんだろうなって思うよ。はるちゃんに出逢った人が、またその人の大切な人を呼んではるちゃんのもとに集まる。そんな人を惹きつける求心力というか、安心感が増している気がする。

嬉しい…!でもやっぱり、そんな私になれたのも、全部が無駄じゃなかったんだなって思わせてくれたのも、出逢ってくれた人のおかげなんですよね。

何より「最終日だから行こう」とか「プレゼントを渡したい」って、会いに来てくれるまでの時間、その人の頭のなかに存在していたんだなって思うと、こんなに有難いことってないなって思ったんです。

頂いたお花たちと
嬉しいって一言にまとめたくないくらい幸せな時間でした


受け取った気持ちを無駄にしないために、自分が頑張りたいことを、目の前のひとつひとつを大切に進んでいきたい。みんなからの言葉が、今も背中を押してくれてる感覚があるので。

これから先の人生でも、ラストの日の光景は何度も思い出すし、思い出すことで困難とか乗り越えて頑張りたいって思わせてくれる原動力になってくれるんだろうなって思います。思い出すだけで、泣けちゃいますね。


━━もう、無敵だね。

そうですね!入社前の自分が今の自分を見たら「ありえない!全然違う!」ってビックリすると思います(笑)



心地良さを大切にしながら生きていく


━━これからの展望について聞いてもいい?

大きな夢としては、自分だけの空間を持ちたいと思っています。そこで珈琲やお菓子をつくって、イベントとかしたり。人が集まる温かい空間を創りたいから、まずは週に1回自分のカフェをオープンしつつ、パティシエとしてお菓子作りにもう一度取り組んでいきたいと思っています。

あとは、自己理解のプロセスを学べたおかげで今の自分がいるからこそ、自分を知る自己理解とか自己受容をもっと発信していきたいなって。出逢った人の人生が+になるきっかけ、日常が鮮やかになるきっかけに少しでもなれたら良いなって思います。

自分も目の前の人も幸せにしていきたい✨


もし、今の自分に昔の自分が声を掛けるなら、きっと「よく頑張ったね」って言うと思う。スタッフやお客さんにも「よく頑張ったよ!」って言っていただけて、自分でも素直にそう思えるから。もう大丈夫。そう思って人生の第二章を進んでいきます!

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あとがき


一つ一つの言葉を丁寧に、感情を込めて伝えてくれる。はるちゃんの話す姿には、自分の気持ちをできるだけそのままに伝えたいという自分に対する誇りと、相手を大切に思う優しさとが現れていると感じます。

話の途中、実は、今でこそ”続けてよかった”と思うまでの過程に、逃げ道として辞めたいと思った過去もあったと正直に話してくれました。

でも、同じ”辞めたい”でも、今回の選択は過去のそれとは全く違います。「もう嫌だ!ばいばい!」ではなく、もっとこっちの道へ進みたいから「今までありがとう!いってきます!」みたいな。ここまで十分にやってきたはるちゃんだから踏み出せた一歩なんだなって思うんです。

インタビューの数週間前
「感謝を伝えきりたい!」と話すはるちゃん(右)

インタビューの時に見たはるちゃんは、自信に満ちていて。でも、それは迷いがなくなったというよりは、迷いが生まれたとしてもそれを乗り越えられる自分がいるから「きっと大丈夫」だという自信。それから、応援してくれている人がいることを忘れない、その支えがある自分だと思えるからなんだなと。だから絶対、大丈夫。

はるちゃんの心地良さから生まれるものを通して、出逢う人が笑顔になっていくその世界を、私も一緒に生きていきたいなと思います。

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