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服づくり現場の教科書 003 / MDの仕事とは?

今回も002のMD企画同様、アパレルメーカーのAMBIDEXでMDを経験されたpaclaの縫う人こと廣瀬雄太さんにゲストとして登壇いただきました。

<廣瀬雄太@縫う人> 1987年 北海道出身
デザイナーになろう!と、札幌のファッション専門学校に2年通学。
在学中に「デザインするには設計図を分からないと!」と気付き、パターンを中心に勉強する。
新卒で株式会社アンビデックスにパタンナーとして採用。パタンナー1年半→生産管理1年半→生産と営業を並行して5年→MD3年…を経験。
・アパレル業界の大量新商品投入による在庫過多
・一方通行なオーバークオリティ商品
など、疑問に思う事が増えたことと、自分の仕事の理想と現実で悩み、
視野を広げて見ようと情報収集したところ、オールユアーズと出会い、今では公式共犯者に。
極小品番数で勝負、わかりやすく、コミュニケーションのできる服
という位置付けで ”pacla” という行動服を企画し、お届けしています。
現在はパタンナーや生産のスキルを活かし、衣服生産プラットフォームの会社で受注生産サービスのテクニカルセールスをしています。

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業務内容の手順をおさらい

1)事業計画書
2)年間予算表
3)仕入れ計画
4)販売計画
5)トレンドマーケティングリサーチ
6)企画でやるべき型数を算出
7)デザイナーへメニュー表を依頼
8)企画の作戦会議
9)企画進行

3の仕入れ計画までを002で説明しました。
今回は4〜7までを解説します。
8・9についてはこの先のMAPの作成が作戦会議に使われる資料、絵型を描こう・仕様書についてが企画進行する部分にあたります。

このnoteでは解説は全て無料部分に記載しています。
有料部分には
・年間予算表
・仕入れ計画
・販売計画
・メニュー表
の4つのExcelファイルをダウンロード出来るようにしてありますので、ご自身のブランドに活かしていただけたらと思います。

販売計画をつくる

販売計画表

画像が荒いのでPDFで数字を見ていただければと思います。
Excel版は記事の最後の有料部分にあります。

販売計画は、仕入計画で算出した在庫を用意する金額を元に、各アイテムの販売構成比を目安に分けていく作業をします。

例えば…ブランドが100万売りたい場合、150万を在庫として仕入れます。
もしこのブランドがワンピースとパンツという2つのアイテムだけを販売していて、販売構成比をワンピース70%・パンツ30%とする時、150万の70%=105万をワンピース、残り30%はパンツを仕入れます。
逆に本来70%予定のワンピースの仕入れが30%しか出来なかったとすると、予算はクリア出来ないということをチェックするための表でもあります。
販売予算に対して適正な仕掛かりをしているかどうか、全体的に在庫を作りすぎていないかなどを確認します。

100万売りたい場合は150万仕入れるとお伝えしましたが、売りたい額以上に仕入れる(仕掛かる)理由としてはふたつあります。

ひとつめは「売上予算達成のための条件が完売」は非常に難しいため。商品が売れれば売れるほど在庫が減っていき、サイズ・カラーの在庫切れや在庫が他店や倉庫にあるなど、販売機会ロスが起こり得ます。
つまり、売上達成が近くても在庫状況が良い状況をつくるには、売上予算より多く在庫を持つしかないのです。

ふたつめは、売る方も消費者も店頭は埋まっているものだという常識になっていて、店頭に商品が出てない箇所があり、スカスカって事はあり得ないという意識があります。

<お店A>
店頭在庫最大5,000
倉庫在庫0
月売上予算5,000

お店Aが予算を取れている(売上達成している)頃には、店頭には何も残らないはずです。日が進むにつれて店頭がスカスカになっていくお店は売れないので、予算達成はあり得ないのです。

<お店B>
店頭在庫最大5,000
倉庫在庫2,500
月売上予算5,000

お店Bの場合、売れて商品が減っても倉庫在庫を出せば店頭を埋められるので、店頭は常に良い見え方でいられます。
良い見え方にして売上を上げたいので多く作ります。

これに関連した落とし穴があり、例えば…地方のファッションビルの一等地でとにかく広いお店があるとします。館内では一等地ですが、ビルの立地が地方だから来客数が少ない場合、「商品(在庫)は多く店頭に出せるが、売上予算は低くせざる得ない」ということになりかねません。
100坪の店頭を埋めるにはおよそ50,000の在庫が必要ですが、売上予算は20,000となると、やはり在庫過多になってしまうのです。

<販売計画表の見方>
まず12月の部分をみての説明です。
単位は(千円)ですので数字の読み方に注意してください。
前年:アパレルでは特に昨年の実績を元にすることが多いので書き入れています。
本年:コートは前年よりも1%多く売っていきたいというMDの意思が書かれています。
販売予算/赤:一番下の段にある販売予算1,500万の5%=75万として記載しています。
仕掛かり金額/緑:売りたい75万に対して実際仕掛かる金額=100万を記入しています。

次に、1月部分にある移行品/黄はセールにかけないブランドの定番品などを新しい仕掛かりとして計算しないために別の枠を設けています。1月の仕掛かり金額は新規でしかかる金額+移行品で記載しています。
基本的に赤の販売予算よりも緑の仕掛かり金額の合計が上回っていないと予定している販売金額を取れません。
また、最下段にある回転率=消化率が1月の部分は34%とと非常に悪いのですが、これは中国の旧正月の都合で2月(場合によっては1〜3月まで)仕入れが出来ない、安定しないという側面があるので、その前に仕入れをしなくてはならないなど、様々な条件を考えながら数字を設定していきます。
単月ではなく、前月からの合計の数字で見るようにしていくのも大切です。

この表ではブラウスとカットソーの在庫が多くなるように設定していますが、販売構成の比率が高いことと、多少在庫が多くなってもセールの商材として販売することが出来るので、それを加味した数字になっています。

<進行する型数の割り出し方>
販売計画で算出されたアイテムごとの仕入額を元に、デザインするべき型数を割り出していきます。
コートの12〜3月までの新規仕掛かり金額は【A】33,000,000
このブランドコート平均単価が【B】20,000円の場合
【A】33,000,000 ÷ 【B】20,000 = 【C】1,650枚 仕掛かる事になる
コート1型あたりの平均量産数が【D】150枚の場合
【C】1,650枚 ÷ 【D】150枚 = 11型
となります。この11型をMDはマップに落とし込み、デザイナーは季節や前年実績などを加味しながらアイテムのデザインをしていきます。

MDマップとは?

スクリーンショット 2020-07-09 18.16.52

このような資料がMDからデザイナーに渡されます。前出の販売計画で算出された型数を元に4月想定で作成しました。
左がアイテム軸、横軸は各週ごとになっていて、すでに絵型が入っているところは「前年実績売れ筋だったものの今年バージョンが欲しい」という意味だったり、他社で売れているアイテムで使って欲しい生地の見本が貼られていたり、戦略商品として「¥10,000/上代のブラウスが欲しい」など金額が書かれていたりすることもあります。

月の立ち上がり1週目に考えられるアイテム全てを出して、スカート・パンツは算出された型数が元々少ないので2〜3週目は継続しつつ、トップスでフェイス(店舗のみため)に動きを出せるようにし、4週目はGW突入なのでガラッと新しいアイテムを投入出来るようにしています。デザイナーは特にトップスは軽めのアイテムや色物などを意識してデザインをしていきます。

トレンドマーケティングリサーチ

つくった計画が正しいのかをきちんと検証=マーケットの情報とすり合わせする必要があります。

販売計画を作るのと同時に、トレンドの情報収集とトレンドを追うかどうかなどの方針を決め、例えば…前年シャツの構成比が15%→でも今年は開襟シャツが新トレンドで売れそうだし、ワンピースよりもセパレートスタイルが良さそう。→それなら15%から20%に引き上げて計画する、など調整していきます。

実際のアパレルメーカーの中では「プロダクトアウト=いい物が作れれば消費者が見つけてくれる」と考えられていて、PDCAを回す…マーケティングをきちんとするという概念がそもそも欠落しているところも多くあります。
MDとデザイナーはきちんとコミュニケーションを取り、自分のデザインしたアイテムがどうして売れなかったのか、どうして売れたのかを検証して次に繋げる必要があると考えています。
ちなみに、国内生産・原価率50%!を謳っているとあるブランドさんは、デザイナーは仕入原価から消化率がインセンティブになっていて、評価に繋がるフェアなやり方を採用しているので、各社このような対応をしても良いのではないかと思います。

メニュー表をつくる

セミナー用_メニュー表

メニュー表はデザイナー・MD・生産がアイテムの中身を全員で把握するための資料です。素材・生産背景・アイテム・色展開・量産枚数・納期・原価・上代などの情報が一目でわかるようになっています。

かなり生産的な要素が強いですが、MDの仕事がそこまでしっかりつながっている事を意識出来るので、同じ生地ごと一括りで作り全員で共有し、常に更新する事で細やかに状況・条件を把握して、仕掛かりの調整に動くことが出来るようになります。

前回のおさらい
「結局のところ、今のMDを続けるってどうなの?」

前回のMD計画のセミナーで問題点が多く見えていました。
悪循環ばかりで、このMDは古く、このまま続けてもアパレルの未来は無いと考えています。

<問題点>
・実店舗があるせいで、フェイスをつくらないと店舗が保たないため、余剰在庫がある。
・テナント料と最低保証があるため、どんなに粗利が悪くても閑散期に売り上げを立てなくてはならない。
・実店舗というのは買い物の常識をみるためのビッグデータであり、販売チャネルが変われば作戦変更が必要。

では、これからのMDやデザイナーってどうあるべきなのでしょうか?

ZOZOなどのモールでの購入は実店舗に近い購入ルートに近いので、現場のMDと近しくても問題ないかと思います。しかし実店舗ではなくECがメインになってくると、指定買い=目的買いになっていきます。その場合MDは売上予算と仕入計画ができれば良くなるので、別のスキルを持っている方が役に立つのではないでしょうか。例えばSNSでのリーチに対しての購入の場合はこれまでのMDとしての分析力は不要、配信スタート時の売り上げが目立つ、ということ。具体的には…
・消費者とのコミュニケーションが出来る
→SNS上での直接のコミュニケーション
・コンテンツを作れる
→クラウドファンディングやインスタライブ
このような手を動かせるマーケターが必要なのでは?
今までのトレンド分析ではなく、世間のことをわかっていること、またオタク気質な方が良いのでは?を仮説として、該当するブランドをご紹介します。

ヒント1 ALL YOURS

インスタフォロワー1.2万人。
素材開発を元に服づくりをしていて、「すぐ乾く」など「消費者にとって」わかりやすい商品説明が魅力。意外とアパレルではここまでの説明をすることがないので、差別化出来ています。それだけきちんと生地の試験などされているということなので、信頼できますね。

CAMPFIREでの24ヶ月連続クラウドファンディングや、ファンを共犯者と呼んで消費者を巻き込む形を取るなど、販売のスタイルも新しい方法を常に生み出していて、複数の「公認共犯者」により情報も拡散がしやすく、ファンが集まりやすい仕組みづくりをしているブランドです。

本質的なことをする人、デザインやものづくりの細かい部分をする人、SNSなど発信のサポートする人…など、ひとつのチームとしてきちんと役割分担がされていて、共通認識の中で発信されています。

どういう理念でこのブランドをやっているのか、何故これをするのか、きちんと説明がなされていてわかりやすく、ものづくりの部分でも「ちゃんとわかってる人」が開発しているので、アパレルの中にいる人からしてもこれまでの常識ではない、新しく面白い物を生み出しています。

最近の動きではオンライン接客をかなり早い段階で取り入れて顧客とコミュニケーションを取るなど、「今何をやるべきか」をすぐ実行出来る柔軟な取り組みをしていて、この感度がアパレル企業もどんどん取り入れるべきと感じます。

ヒント2 iCONOLOGY

岐阜にある刺繍工房「ユタカ工房」の3代目による美しい刺繍をまとったブランド。本職の刺繍の技術を活かして熱量の高いプロダクトを作っています。

初回は3種類の花を袖に刺繍した「花を着るワンピース」をクラウドファンディングで支援を募り生産。ワンピースだけではなく、工房見学などのリターンもあり、総支援額は2,747,000円!

先にご紹介した2ブランドとは違い、ものづくりの現場である工房発信のブランドで、それまでに培ってきた刺繍の技術と魅せ方を軸にして、存分に発揮する形で提案しています。
服本体のデザインはシンプルで美しいシルエットで、そこにのせる刺繍の違いで複数型みせる方法。twitterのフォロワーにどのような旬の花があるかを聞いてコミュニケーションを取ったり、図案を早い段階で少しずつ見せていくなど、発信の方法は現場に最も近いからこそ出来ることです。

ファクトリーブランドは得意なことをブレずに特化して、マニアックであっても一部の人に深く刺さるブランドになれば、差別化出来てうまくいく見本なのではないでしょうか。
型数を絞ればひとりで動くことも出来るので、じっくり時間をかけて、少しずつアウトプットしても良さそうですね◎

MD・デザイナーとしてどうあるべきか、ディスカッションしてみよう

ここまでのヒントで比較的生産の現場に寄った知識が必要になりそうだということと、多くいただくご質問もかなりその部分に寄ったことが多かったので、ディスカッションテーマもそのような内容になりました。
こちらも後日noteへまとめさせていただく予定です。

Excelデータダウンロード

冒頭に記載しました通り、この下に
・年間予算表
・仕入れ計画
・販売計画
・メニュー表
の4つのExcelファイルをアップしております。ぜひご活用ください。

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