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一つの命を大切に、素晴らしい人生を生きてほしい|『墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便』

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1985年8月12日。
羽田発伊丹空港行きの日本航空123便が、群馬県の山間部に墜落。

死者520人。
単独機事故としては世界最多の死者数。

墜落地点が群馬と特定されると

「飯塚刑事官は身元確認班長だ。わかってるだろうが、身元確認は航空機事故捜査でもっとも重要な任務だ。誤認引き渡しの絶無を期してがんばってくれ」
と下命された。  
重要な任務であることはいわれるまでもない。思わず身体が身震いで反応していた。 
腕時計に目をやる。午前六時だ。
本部長命令につづいて、捜査一課指導官中村稔警視から、
「身元確認班長は、二機二大一一四名を指揮してやってください。検屍、身元確認の場所は、藤岡市民体育館」
と指示される。

『墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便』

それは、著者・飯塚訓刑事の、520人を家族の元へ帰すための、127日間に及ぶ長い長い戦いの始まり。


 著者は群馬県高崎署の刑事官

作者は 飯塚訓
書籍に記載されたプロフィールは下記の通り。

1937(昭和12)年、群馬県に生まれる。日本大学法学部卒業。1960年、群馬県警察官として採用され、以後、警察本部課長、警察署長、警察学校長等を歴任。1985(昭和60)年、高崎署刑事官在職時に、日航機墜落事故が発生、身元確認班長になる。1996年、退官。現在は、講演活動などを通じて、日航機事故の語り部として、命の尊さを伝えている

『墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便』

なんか、もの凄い人だと思ったのですが(いや、充分すごいんですけど)、群馬県の刑事さんだったんですね。
選んだわけではないけど、背負ったものの凄さを思うと考えさられます。
事故が運命を変えたのは、亡くなった方、その家族だけではなかったというか。

出版社は 講談社

掲載誌・レーベルは 講談社+α文庫

発売は 2015年6月


印象的だったボランティアの存在

一九八五年(昭和六十年) 八月十二日。 
群馬県の南西部に位置する「上野村」の御巣鷹山の尾根に、日本航空機123便が墜落し、なんの覚悟も準備もできないまま、五二〇の無辜なる魂が一瞬にして生命を奪われた。
窓という窓を黒い幕で覆った体育館の中で、汗みどろで作業をつづける医師、看護婦、警察官らの集団。
おびただしい数の死体が放つ悪臭と、もうもうと漂う線香の煙。
時折、館内の喧噪をつんざいて走る女の悲鳴、号泣、そして叫喚の声。
まさしく地獄絵図としかいいようのないおぞましい光景が……。

『墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便』

文字だけでは、半分も理解していないのかもしれない。

しかし、文字だけでも、そこにいた人たちの必死さ、無念さ、そして起きた事故の残酷さが痛いほど伝わってくる。

完全な遺体は本当に最初だけで。
すぐに身体の一部分しかない遺体がほとんどになる。

すぐに歯が身元確認の重要な決め手になるだろうと予測してレントゲンを用意する医師。
涙でカメラのピントが合わせられない警察官。
少しでも、綺麗な姿で送ってあげたいと手を尽くす看護師。

その誰もが、自分の役割を超えて、遺体を家族の元に帰してあげたいという気持ちが伝わってくる。

そして、普段、普通の人よりも生死に関わるプロでさえも苦戦するほど大変な状況だったこともよくわかる。

悲しくて、辛い話がずっと続く。
どの話も、読み流すことが出来ない。

しかし、その中でも私が印象的だったのはボランティアの方々の話だ。

「何か欲しい物があったらいって……………」といわれると、
「サラダが食べたい」とか、
「煮物が食べたい」とか、
つい本音が口をついて出る。

『墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便』

身元確認に関わるわけでもないのに、ボランティア? と思っていた。
しかし、ボランティアの方々は、確かに極限状態の医師、看護師、警察官を支えていた。

プロとはいえ、人間なのだ。

そして、ボランティアの方々が支えたのは彼らだけではない。

ボランティアの人たちに心を癒されたのは医師、看護婦、警察官だけではない。
夫に死なれた妻、息子夫婦と孫に死なれた老夫婦らの涙の訴え、心情を何時間もの間、 ともに泣きながら聞いてやっている。これも会場の隅でよく見られた光景である。
日航職員も、苦しい心境を打ち明けられるのは、婦人会やボランティアグループの人たちだけであったのだろう。
「ご遺族のために一生懸命、誠心誠意やっていることがまだ理解されない」とか、
「遺族に罵られ、胸ぐらを掴まれ、ツバを吐きつけられた・・・・・・」
など、泣きながら、どうにもならない悔しさを打ち明けている。

『墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便』  

ボランティアの方々の存在がとても大きかったのがよくわかる。

そして、物事を動かしているのは、技術と知識を持ったプロだけではない、ということも再認識させられる。

何という感想が良いのかわからないくらい、無念とら悲しみと熱意が詰まった本でした。


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