娯楽も“効率良く消化する”時代|新書『映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~』
映画やアニメを早送りで観る人がいる。
しかも、それは仕事や勉強の為に期限があるからではなく、娯楽として観ているはずのものに。
そんな“違和感”から筆者である稲田豊史氏は現代の若者たちが置かれた状況を分析する。
倍速視聴はオタクやマニアと呼ばれる人の中には一定数存在はしていた。
しかし、現在の倍速視聴はそれとも状況が異なると言う。
一つの要因はSNSの普及だ。
現代の若者たちは仲間と常時“繋がって”しまっている。
そしてサブスクリプションの登場による“コンテンツ”の供給過多だ。
変わってしまった娯楽を取り巻く環境の先に何があるのか。
倍速視聴をしてまでもコンテンツを消化しようとする心理はどこにあるのか。
そんな疑問を一つずつ紐解いているのが本書だ。
セーラームーン世代の社会論を書いた人
著者は稲田豊史。
ライター、コラムニスト、編集者、漫画原作者として活動している。
デビュー作は『セーラームーン世代の社会論』。
出版社は光文社。
レーベルは光文社新書。
買わせるタイトルが上手い人
正直、この感想を書くまで『セーラームーン世代の社会論』の筆者とは気づかなかった。
なるほど、今回の著作といい、フックをかけるのが上手い方のようだ。
ただ、本書をオジサン(もしくはオバサン)が「最近の若者は作品を早送りして見るなんてけしからん」と満足させるだけの内容と切り捨ててしまうには勿体ない。
常時SNSで繋がっているためにプロフィール欄を埋める為に“オタク”を求める人たち。
少し前は「私、オタクなんですー」と言われて面食らった方もいるだろう。
(そしてその“オタク”としての底の浅さにも驚いただろう)
しかし、現在では“カジュアルに名乗れる時代”も終わっているようだ。
別にその“好きなもの”を突き詰めたいワケじゃない。
そして“オタク”を名乗っても、すぐに自分よりすごい相手が出てきてしまう。
ちょっと耳が痛い話だ。
悪意がなくても「オタクなんです」と自分の好きなジャンルを言われたら、嬉しくなって語り尽くした結果、踏み抜いてしまったオジサン、オバサンもいるだろう。
なぜ、そんなに急いで多くのコンテンツを消化しなければならないのか、については下記のように分析されている。
コンテンツの供給過多に加えて、可処分時間の減少。
友人との会話についていくために膨大な情報を短時間で把握する。
ただ、本書の最後には「情報処理が早くなったのではないか?」ということも書かれている。
彼らは時代に忙殺されていく存在なのか、はたまた新たな能力を持った新人類なのか。
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