〝戦争とは錯誤の連続〟|『イスラエル戦争の嘘 第三次世界大戦を回避せよ』
9・11テロにNHKワシントン支局長として遭遇したジャーナリスト兼作家の手嶋龍一と作家・元外務省主任分析官で外務省のラスプーチンと呼ばれた作家の佐藤優のタッグ再び!
前作の感想はこちら。
今回はタイトル通り、現在も戦闘が続き、沢山の民間人が犠牲になっているイスラエルとイスラム教組織ハマスを国の成り立ちから解説し、それぞれの知識を元に見解を示した1冊。
漠然と、ユダヤ人の国イスラエルを、元々いたパレスチナの人を追いやって無理矢理建国したところから、民族・宗教から来る紛争が絶えない地域、くらいの認識はあるが、正直、前作のロシアとウクライナの関係ほど知っていることがない。
佐藤優は、イスラエルの根底にあるのは、この思想だ、と解説する。
ナチスのホロコーストで多くの人が、ユダヤ人だということだけで虐殺された歴史を持ち、その歴史からユダヤ人の国を渇望し、今、その時と同様にユダヤ人ということを理由にテロを仕掛けてくるイスラム教組織ハマスと対峙しているイスラエル。
迫害された歴史があるからこそ。
しかし、テロ組織を中立化(戦闘不可能の状態にする、または逃亡させる)させようとするイスラエルの攻撃で、多くの民間人が犠牲になっている。
そして、パレスチナ人も、イスラエルという国を建国するに当たって、多くの土地を奪われた歴史もある。
混迷を極める中東情勢を、知識を武器にしてきた2人がどう見るのか。
独自のコネクションで得た情報を交えた分析が光る1冊。
いつもよりも感情が見える佐藤優が印象的な1冊
岸田政権のイスラエルに対する対応が変わったくだりで指摘した手嶋龍一のこのコメント。
なぜ、佐藤優がラスプーチンと呼ばれたのか。
佐藤優、ロシアに詳しいだけでなく、イスラエルにもいたことがあるとは。
しかも、現在もモサド(※イスラエルの諜報機関)とも繋がりがあるとは。
作家を名乗ってはいるけれど、現在でも国の中枢やロシア、イスラエルに強力なパイプを持つ彼が語る言葉は、どんなニュースの解説員よりも重みがある。
外交官というのは、スパイの入口、なんて言葉があったような気がする。
その上で。
知識を武器に世界を渡ってきた人の、使命感というか、ここで持ちこたえなければ自分の後ろには戦争しかない、というような覚悟というか。
特に、本作では、珍しく佐藤優が感情的、というか強い思いを持って語っているのが見える瞬間が随所にありました。
戦闘を止めたい、その鍵を我々は持っているはずだ、と言われているような気がして。
キリスト教の信者でもある佐藤優が聖書から引用したこの言葉がとても印象的でした。
人が復讐してはいけない。そう神が伝えた土地で、復讐の連鎖が止まらない。
本作を読んで、状況がわかったからと言って、自分なりの考えが出来たか、と言われると、そんなことはなくて。
まだ、何も答えは出せない。
しかし、少なくとも“知ること”で、次の一歩が出せる瞬間があるかもしれない。
読んで損はない、1冊だと思います。
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