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日本における読書の歴史に触れることができる魅力的な一冊|『読書と日本人』
本はひとりで黙って読む。 自発的に、たいていはじぶんの部屋で――。
それがいま私たちがふつうに考える読書だとすると、こういう本の読み方は日本ではいつはじまったのだろう。
私たちが、当たり前のようにする“読書”。
そんな“読書史”を知ることが出来るのが、本書『読書と日本人』です。
著者は読書が日本人に根付き始めたのを平安時代の中期頃ではないか、としています。
大きな影響を与えたのが平仮名の登場でした。
まずは仮名文字の普及に反比例して、貴族や僧侶など、専門知識人以外の一般の知識人の漢字能力が徐々におとろえを見せはじめたこと。そして第二に、この時代も終わりに近づくにつれて、それまで文字には縁のなかった下層武士や村の名主クラスの百姓、ひいてはその妻や娘までが、公文書をはじめとする、さまざまな文章を書いたり読んだりできるようになったこと――。
表音文字「平仮名」の登場で“読者”が一気に拡大した。
そして長い時を経て。
印刷技術の変化も大きな影響を与えます。
幕末期の長崎における本木昌造の鉛活字鋳造にはじまり、明治ゼロ年代から十年代にかけて、産業革命期のヨーロッパで開発された鉄製印刷機や輪転印刷機、木材パルプによる製紙技術、洋式製本術などがつぎつぎに移入されていった。
そこから1880年頃に木版印刷と活版印刷を行き来していたものが、完全に活版印刷へと移行されていきます。
そしてこの活版印刷によって、本は読みやすくなり、持ち運びしやすく小型化されていく。
そして、識字率の向上と本の大量生産が可能になった20世紀。
遂に読書の黄金時代がやってくる――。
多くの著作がある評論家の1冊
著者は津野海太郎。
演出家・編集者・評論家。元晶文社取締役、和光大学名誉教授。
タイトルを見る限り、読書に関する評論を多く執筆しているようです。
出版社は岩波書店。
掲載誌・レーベルは岩波新書。
発売は2016年10月。
読書の“これまで”と“これから”
元々、読むきっかけは、毎週愛聴しているラジオ番組『ジブリ汗まみれ』で鈴木敏夫さんが紹介していたから。
「 本を読まなくなった、っていうけど、ブームが去っただけなんですよ」
というようなことを仰っていて。
どんな本なんだろう、と。
読んでいくと、冒頭の20世紀の読書の黄金時代まではリアル『本好きの下剋上』みたいで楽しかったです。
菅原道真の『書斎記』や、『源氏物語』、『更級日記』等に残る読書風景の描写を拾い集め、“読書”の輪郭を辿る。
でも、やはりガラッと変わるのは本の大量生産が可能になり、識字率が一気に上がった20世紀になってから。
現代の読書環境に一気に近づきます。
二十世紀読書のかなめは「おなじ本を別の場所にいる見知らぬ他人とともに読む」という読書習慣の平等化にあった、という意味のことをのべました。その平等化への熱意が、一世紀たって、日本のみならず「世界中のみんながいっせいにおなじ本を買って読む」という度をこえた読者の同調志向をまねきよせてしまったのです。
読まれる本は、学術的な“かたい本”から、娯楽的な“やわらかい本”へ、そして雑誌へ、漫画へ――そして人は本を読まなくなっていった。
それは20世紀にはじまった“読書ブーム”の終わり。
そしてその後には何が残るのか。
著者はこう語ります。
もし「ひとりで黙って読む。自発的に、たいていはじぶんの部屋で」という読書がそこまで大事なものであるなら、その魅力を再発見するだけのためにも、いちどはそれを失ってみたほうがいい。そうすれば、たぶん私ごとき「老年世代」が消えたあとの世界で、人びとは本の魅力をあらためて発見しなおし、そこから〈紙の本〉と〈電子の本〉をひっくるめての新しい読書の習慣を再構築してゆくにちがいない。
このまま行けば、誰もが気軽に本に触れられる現在の環境は潰える。
しかし、欲する人がいれば、形を変えて残るかもしれない。
私が想像するちょっと先の未来は「コストの低い電子書籍が先に発売するようになり、人気のある作品だけがコレクションアイテムとして紙として発売される」です。
現に、漫画やライトノベルだけに関して言えば、既にpixivや小説家になろうで人気になった“デジタル先行”で、一度そこで篩いにかけられ残ったものが書籍化されている。
まあ、このビジネススタイルが正解だとは思ってないし、定着すると確信もしていないんだけど。
どう思いますか?
読書のこれまでと、これからを想像する1冊。
楽しめると思います。
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