いいんだ 死ぬつもりだったから|漫画『エロスの種子』第8巻
もんでんあきこの、1巻完結型のシリーズ作品。
シリーズこれまでの感想はこちら。
稚内。
防波堤の行き止まり。
そう声をかけられた男は、そのまま海へと飛び込んだ。
死ぬつもりだった男は、病室で目を覚ました。
男の視界に入ってきたのは、防波堤で声をかけてきた花守という男と、その妻。
目が覚めたら帰っていい、と医者から言われていたので、2人が営む民宿へ。
シーズンオフで客もいないから、お金はいらないのでゆっくりしていけ、と“たろう”は夫婦の民宿に身を寄せる。
暖かい食事を食べ、風呂に入り、布団の中で。
“たろう”は自身の半生を思い出していた。
物心がつく頃からの吃音。
父は完全無欠の男で、そんな自分を人生はじめての汚点だと言った。
学校でも笑われ、いじめられた。
唯一“たろう”を馬鹿にしなかった“あゆみちゃん”は、彼のことを好きだと言ってくれたけど、キスしているところを見られ、父に知られ、彼女は父の圧力で逃げるように引っ越して行った。
何かが壊れた。
それから、彼は手当たり次第に物を壊し。
自室に引きこもる生活になった。
そして――
稚内での生活は穏やかに過ぎて行った。
花守夫婦の高校生の娘とゲームをし、漁船に乗るアルバイトもした。
何となく、生きてる実感を持ち始めたその時。
テレビから、流れてきたニュースが、その日々を断ち切った。
ニュースをじっと見つめる“たろう”
そのただならぬ様子に、花守一家は、彼の名前を呼んだ。
そして、“たろう”は驚きの言葉を口にする。
札幌へ戻る。
現実に、向き合うために。
今度は、自分が、父を踏みにじってやるために
今回もハズレなし!
今回も面白かったー!
このシリーズ、最初の方は1巻完結ではなく、1話完結、もしくは数話で完結のスタイルなのですが、基本巻をまたぐエピソードはないので、気にしないのであれば、好きなストーリーの巻だけ読むことも可能です。
(キャラクターがエピソードにまたがって出たりもしません)
タイトルがやや攻めてるので、内容を誤解されがちですが、結構ドラマチックな内容が多いシリーズでもあります。
今回は、前巻のエピソードとは真逆な印象のあるストーリーです。
主人公の泉は、最初死のうとしていて、人生のどん底にいるような状況なのですが、吃音(でいじめられていること)以外は、何だかんだハイスペックなんですよね。
異性から受け入れられるだけの容姿も、後からでも巻き返せるだけの頭脳も、体力も持っている。
なのに、たった1つがないだけで人生が真っ暗になってる。
本人が気づいてない、たったそれだけのことで。
でも、案外、色々なものを持っている人ほど、その持ってない1つに絶望したりするのかな。
1つしか持っていなければ、もうそれで勝負するしかない、と腹を括れるかもしれない。
残りの9つがないことを嘆いても、キリがないから。
でも、9つ持っているのに、たった1つが手に入らないのは。
とても気になるものなのかも。
そして、このストーリーの魅力は、泉のことだけではなく、彼が好きだったあゆみちゃんや、花守一家、そして両親や、父親に依頼されて来た弁護士の亮香、それぞれが少しずつ影響したり、間違えたりしながら、ここまで来たことが、ゆっくりと丁寧に解かれていくことです。
毎回、新作が楽しみなシリーズです。
今回も面白かった。大満足。
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