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いいんだ 死ぬつもりだったから|漫画『エロスの種子』第8巻

もんでんあきこの、1巻完結型のシリーズ作品。
シリーズこれまでの感想はこちら。


「あー ちょっと そこのあんた どいてくんねぇべか 朝日撮りてぇんだわー」

『エロスの種子』第8巻

稚内。
防波堤の行き止まり。

そう声をかけられた男は、そのまま海へと飛び込んだ。

「いかった 目ぇ覚ました」

『エロスの種子』第8巻

死ぬつもりだった男は、病室で目を覚ました。

男の視界に入ってきたのは、防波堤で声をかけてきた花守という男と、その妻。

目が覚めたら帰っていい、と医者から言われていたので、2人が営む民宿へ。

「お兄さん名前は? いくつ?」
「い い いずみ… 23」
「泉さんね 下の名前は?」
「たろう」

『エロスの種子』第8巻

シーズンオフで客もいないから、お金はいらないのでゆっくりしていけ、と“たろう”は夫婦の民宿に身を寄せる。

暖かい食事を食べ、風呂に入り、布団の中で。
“たろう”は自身の半生を思い出していた。

物心がつく頃からの吃音。
父は完全無欠の男で、そんな自分を人生はじめての汚点だと言った。
学校でも笑われ、いじめられた。
唯一“たろう”を馬鹿にしなかった“あゆみちゃん”は、彼のことを好きだと言ってくれたけど、キスしているところを見られ、父に知られ、彼女は父の圧力で逃げるように引っ越して行った。

何かが壊れた。

それから、彼は手当たり次第に物を壊し。
自室に引きこもる生活になった。

そして――

稚内での生活は穏やかに過ぎて行った。
花守夫婦の高校生の娘とゲームをし、漁船に乗るアルバイトもした。

何となく、生きてる実感を持ち始めたその時。
テレビから、流れてきたニュースが、その日々を断ち切った。

「…続いて北海道のニュースです
札幌市東区の民家で女性の遺体が発見されました
死亡したのは 中島仁美さん47歳
詳しい死因は不明…
同居している長男と連絡が取れておらず
なんらかの事情を知っていると見られ 現在行方を…」

『エロスの種子』第8巻

ニュースをじっと見つめる“たろう”
そのただならぬ様子に、花守一家は、彼の名前を呼んだ。

そして、“たろう”は驚きの言葉を口にする。

「お 俺です
この長男は俺です
お 俺の 本当の名前は 中島泉です
さ 札幌に戻ります」

『エロスの種子』第8巻

札幌へ戻る。
現実に、向き合うために。

今度は、自分が、父を踏みにじってやるために


今回もハズレなし!

今回も面白かったー!
このシリーズ、最初の方は1巻完結ではなく、1話完結、もしくは数話で完結のスタイルなのですが、基本巻をまたぐエピソードはないので、気にしないのであれば、好きなストーリーの巻だけ読むことも可能です。
(キャラクターがエピソードにまたがって出たりもしません)

タイトルがやや攻めてるので、内容を誤解されがちですが、結構ドラマチックな内容が多いシリーズでもあります。

今回は、前巻のエピソードとは真逆な印象のあるストーリーです。

主人公の泉は、最初死のうとしていて、人生のどん底にいるような状況なのですが、吃音(でいじめられていること)以外は、何だかんだハイスペックなんですよね。

異性から受け入れられるだけの容姿も、後からでも巻き返せるだけの頭脳も、体力も持っている。

なのに、たった1つがないだけで人生が真っ暗になってる。

本人が気づいてない、たったそれだけのことで。

でも、案外、色々なものを持っている人ほど、その持ってない1つに絶望したりするのかな。

1つしか持っていなければ、もうそれで勝負するしかない、と腹を括れるかもしれない。
残りの9つがないことを嘆いても、キリがないから。

でも、9つ持っているのに、たった1つが手に入らないのは。
とても気になるものなのかも。

そして、このストーリーの魅力は、泉のことだけではなく、彼が好きだったあゆみちゃんや、花守一家、そして両親や、父親に依頼されて来た弁護士の亮香、それぞれが少しずつ影響したり、間違えたりしながら、ここまで来たことが、ゆっくりと丁寧に解かれていくことです。

毎回、新作が楽しみなシリーズです。
今回も面白かった。大満足。


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