福岡で考えた、ワーケーションのこれから
2023年4月8日、福岡市で日本ワーケーション協会が主催する「ジャパンワーケーションカンファレンス2023春in福岡」が開催された。2023年5月8日には、新型コロナウィルス感染症が5類に引き下げられ、いよいよコロナ禍も収束に向かっていくものと思われる。
その中で、改めてワーケーションとは何なのか?これからってどうなのか?福岡での経験を基に考えてみた。
そもそも、違和感のあった捉えられ方
ワーケーションとは、そもそもの語源はWorkとVacationを組み合わせた造語。ただその言葉は日本で生まれた和製英語ではなく、海外で元々言われていた言葉でもあった。その言葉は安定していたのではなく、ノマドワークなど様々な呼ばれ方をしている。
日本人は真面目なので、遊ぶニュアンスが伝わるからダメだとか、効果的なのか?コロナ対策としてどうなのか?とかそういう議論が多かったのだが、そもそもとして「普段と異なる、場所を変えて豊かに暮らし働く手段」なのである。つまり、それぞれの人にとってのワークスタイル・ライフスタイルそのものである。
人によっては、場所を変えて仕事をすることで、集中できることを求めたりする人もいれば、仕事が終わったら食べるご飯に魅力を感じる人もいる。趣味に没頭したいという人もいれば、いろいろな地域での旅や出会いを楽しみながら働きたい人もいる。
ワーケーションを通して、行った先とで起きるイノベーションの中身も、100人いれば100通りのスタイルがあるものなのだ。それだけ多種多様に満ちている。
だから、本来他人に押し付けるべきではないのである。私でもやりたいワーケーション像もあれば、自分には合わないと感じるスタイルもある。でも、それで良いのであって、私は本質が間違っていなければ基本的に認めている考え方である。
旅程を完璧に縛り付けることも間違えていて、それはワーケーションではなく、ただのツアーである。本質として、ワークスタイル・ライフスタイルであること、それ故に選択肢がたくさんあることに、根本が一致していれば良いのである。ただし、その本質からズレているものは非常の多く散見されたのは事実ではあるが。
日本では、どのワーケーションが正解なのか?という議論が起こり続け、本質を見失っていたケースが多かったことは、私自身非常に残念であった。要は、本質的に一致していれば問題ないのである。
コロナ禍で起きた、ワーケーションの変化の流れ
変化を捉えていく上で「日本のワーケーションはこれからどうなる? いま改めて考える働く場所の自由度」の山梨大学田中敦先生(日本ワーケーション協会フェロー)のインタビュー記事を参照したい。
そもそもインターネット上に「ワーケーション」という言葉が出てきたのは、2010年頃だった。ワーケーションの元々の使い方は、基本的に「休暇期間中にも途中で仕事もすることだったが、今は、家でも会社でもない場所で、仕事をしながら何かする、といったものはすべてワーケーションと呼ばれている。(=ライフスタイル・働き方)
ただ、ワーケーションという言葉が出てくる以前から、家族と休暇を過ごしながら、空いた時間にメールを返信したり、仕事したりすることは実際に行われていた。実際に私も2015年ぐらいから、どこでも働けるノマド的な働き方をしていた。
コロナ禍の真っ最中だった2020年7月27日に、菅義偉官房長官(当時)が「ワーケーションを政府として推進する」と宣言したことで一気に認知度が高まった。ちなみに、日本ワーケーション協会はこの宣言の直前、7月1日に京都市で設立された。
今のワーケーションは働く人が「テレワークを行う場所を自由に選ぶことができる制度」と言い換えることができる。これまで働く「時間」の自由度については、労使で協議をしながらフレックスタイム制度や裁量労働制に代表されるようにいろいろな取組みがなされるも、働く「場所」については法的な規定はほとんど存在しなかった。
実際には2021年3月に厚生労働省から「改正テレワークガイドライン」が出されるまでワーケーションの際の労務管理や労災適用などのルールが曖昧だという指摘も多く、なかなか浸透しなかった。
菅前総理の宣言は、コロナ禍の最中でGo To トラベルキャンペーンを開始したタイミングと重なってしまったため、開始当時はネガティブな印象。しかし、今では好意的に捉え、やってみたいという方が増えてきた。
2022年度以降にはワーケーションが実施しやすい制度やルールを採り入れる企業が徐々に増える。企業の人事部はやや保守的なところも多いが、厚労省のお墨付きが背中を押すことになったかもしれない。また経団連は2022年7月に導入ガイドを発表した。
このコロナ禍を通して、自らのライフスタイルを見直す方が増え、テレワークできない会社から、できる会社へ転職したり、フリーランスを始めたり、会社員がアドレスホッパーになったりなど、かなり多くの変化が生まれてきた。
ここで着目してほしいのが「働き方」「ライフスタイル」を個々で見つめ直す方が増え、後押しする企業も少しずつだが生まれてきて、やりたいと思う人が、少しずつ始めてきているのが今の現状にある。
そして、それらが様々なイノベーションも起きるだろうと期待もされてきているのである。
福岡で感じた、ワーケーションが好きな人種
ワーケーションはこれから流行るのか?廃れるのか?という話も聞くのだが、そういう話ではない。コロナ禍を通して、テレワークという働き方の選択肢が明確に増えた。多様なワークスタイルやライフスタイルの中の選択肢として、ワーケーションが存在していく。恐らく完全オフィス出社でノマドワーカーとの交流がない人にとっては、その意識は廃れると思うだろうし、会社員でもハイブリッドワークだったり、ノマドワーカーなどにとっては、寧ろコロナ禍よりも仲間が増えたと感じるだろう。要は感じ方がこれから人それぞれになるのである。
福岡で開催されたワーケーションカンファレンスの参加者と話していると、ワーケーションが好きな人もしくは既にライフスタイルとして無意識にやっている人は、全体的にポジティブな方が多いということだ。それに伴い、やる人、地域や事業者、自治体職員なども、興味が高い人は同様に前向きな人が多い。
つまりライフスタイル面で捉えられている「ワーケーション」というワードに集まる人種は、ポジティブでアクティブな方が多い。そして、話が合うのである。勿論、世界においてもこのようなライフスタイルを送る人は少数派であるから、ワーケーションというワードを通して既に目では見えないコミュニティができているのかもしれない。
ワーケーションがしたいのに、憧れで止まっている
株式会社リクルートじゃらんリサーチセンターでワーケーションの研究をしている森成人研究員の調査をみると、年齢別では、20〜50代の男性の20〜30%が、20〜30代の女性の20〜25%がワーケーションをしてみたいと思っている。しかし、実際にできている人はそのうちの5〜20%程度である。つまり、やりたいと思っている人の平均で7人に1人ぐらいしかまだできていないのが現状なのである。
一方で、やりたくないという人も過半数を超えているが、これは問題ない。何故ならワーケーションは多様化するワークスタイル・ライフスタイルの中の1つの手段であって「全員がやらなければならない」ものではないからである。今の問題点は「やりたいのにできない環境下にある」という人が、非常に多いということである。
「やりたくない」という過半数側が、「やりたい」という3割の人たちに対して、多様化を認めずに押し付けていると感じている。しかし先述の通り、ワーケーションというワードに興味関心の高い人は、ポジティブ、アクティブな方が多い故に、縛り付けられるのであれば、働き方を変えるという選択肢も取れるようになっていくのである。
ワーケーションをしたことない人が、ワーケーションのプランを作ってしまった
私はこの指摘をずっとし続けてきたが、この3年ほどで日本の中で生まれてしまったのは、ワーケーションをしたこともない人が、まるで旅行パッケージツアーのように造成をして「ワーケーションツアー」と名付けたものが大量に発生したことである。
旅行会社の考え方に当てはめてしまうと、仕事が観光パッケージツアーの中で、強制的に時間の制約を受けて設定をしてしまうものである。これは私自身が大手旅行会社でツアー造成経験があるので、よく分かる。
想像してみて欲しいが、平日の午前中に強制的に観光で連れ回され、午後に仕事の場所が指定されて時間が2時間だけ確保されている。そしてまた夕方前から観光バスが登場。これで果たして、やりたい仕事、暮らし方、目指したい、やりたい事ができるのだろうか?
中には、ワーケーションという名称を用いながら、実際には地元食材を食べるだけのオプショナルツアーというものも存在していた。正直怒り心頭であった。
ワーケーションはライフスタイル・働き方だ。つまり先述したツアーは、多様化の中で生まれてきている概念に、強制的な要素を放り込んでいくという矛盾である。ワーカーの過ごしたい過ごし方を提案してあげるのが本当は必要なのである。
私は行程を見た瞬間に「あ、この地域はワーカーのことは考えず、地域のエゴを押し付けているな」と直ぐに分かってしまう。こうした事例が多々見られ、実は自治体から見たワーケーションの事例と、実際にワーケーションを元々楽しんでいた人たちの人気地域に大きな乖離も生まれていたのも事実だ。
今後は、このようなミスマッチな状況はどんどん淘汰されていくだろうと思うし、ミスマッチな状況で進めている地域は、続けることができなくなるだろう。
だからこそ、一度根本の本質に立ち返って欲しい。ライフスタイルの多様化の中にあり、その根本を捉えた上で、自身や地域のカラーを組み込んでいけば良いのである。
多様な考え方を受け入れてきた福岡市
福岡市では「大都市型ワーケーション」の位置付けで、ワーカーのライフスタイルや働き方、旅のスタイルを考えて様々な取り組みが行われてきた。
よく働き、よく遊ぼう 空港からあっという間にビジネスの中心地へ まちと自然の近さは余暇を充実させ、生活の質を高める オン・オフいずれの価値も求める方に、最適な環境が福岡にはある
福岡市のワーケーションサイト「W@F」で紹介されているフレーズだが、至ってシンプルで伝わりやすく、ゴリ押さずにワーカーへ選択肢を与えてくれているのかがわかるだろうか。
福岡市では、2022年度「福岡ワーケーションフェス2022」も開催した。福岡市のことだけでなく、福岡市を軸として、九州各地へ広げていく姿も、それぞれのワーカーのスタイルに合わせた提案と情報提供ということができる。イベントレポートは下記を参照されたい。
【イベントレポート】「福岡ワーケーションフェス2022」福岡・九州と全国各地の、人と人を繋ぐ。(前編)
【イベントレポート】「福岡ワーケーションフェス2022」日本でもっともチルな島”能古島へ。(後編)
また、福岡市でワーケーションを働き方、地域での受け入れ両面で活動するホンプロの情報についても下記を参照して欲しい。
福岡市では2023年度から、訪日ワーケーション・デジタルノマドの展開も始まっていく。
ワーケーションのこれからとは?
ワーケーションに関しては、例えば訪日ワーケーション・デジタルノマド、親子ワーケーション、オフサイトミーティング・開発合宿などのプロジェクトチームで行うもの、地域でのアイディアソンなど、求めるニーズに合わせてより細やかなものになっていくと予想している。
日本での捉え方としては、ワーケーションが大きな枠組みにあって、先ほど述べた要素が1つひとつ含まれているものとなる。その上で、すべての根本と本質はワークスタイル・ライフスタイルの多様化によって発生しているものであり、それらを認めていけるかどうかの問題となっていく。
特に世界へ目を向いていくのは大きい。世界は動く中で、日本の自治体のワーケーションのターゲットが首都圏のみ、となっていると私はその段階で視野が狭すぎて話にならないと感じている。日本のワーケーションの多くは東京目線で語られてきたが、その目線自体ももう古くなってきている。
世界に視野を広げると、東京だって目的地、東京のワーカーと世界が繋がる事ができれば、更にワーケーションの可能性は拡がると信じている。それだけ東京の可能性も大きくなる。
福岡市だけでなく、大阪府においても国際金融都市構想に向けて事業を進めており、両市では外資系企業の誘致とそれに伴う人材の確保も起こってくるだろう。働く環境が古いままでは、こうした外資系企業が魅力的な働く環境を提供すると、日本企業が太刀打ちできなくなるかもしれない。
4月8日に福岡で開催されたワーケーションカンファレンスでは、オンラインも含めて、参加者地域や層がかなり分散化された。本来のワーケーションはこのように「どの地域・国の人が、どこへ行って経験しても良いライフスタイル」なのである。
実際に、地方都市在住のアドレスホッパーやワーケーションをやる人も増えてきている。株式会社リクルートじゃらんリサーチセンター森成人氏の調査をみると、ワーケーション意向度に地域格差は存在しない。
ライフスタイル・働き方の多様化を如何に認め、豊かなライフスタイルを送っていくのか。福岡で全国各地から集まって、改めて私自身も考えさせられたし、これからのワーケーションの多様な可能性が楽しみだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?