涙。

わたしは滅多に泣かない。

というより、泣けない。

本当の意味では、ほとんど。

ここでいう本当の意味とは、嬉しいときや悲しいとき、辛いときなど、感情に基づくことを指す。

誰もが感動して涙を流すような場面でも、しれっとしたものである。

しかし、いかんせん、周りの視線が痛い。

いつの頃からか、誰に習うでもなく、嘘泣きを覚えた。

卒業式で周りに合わせて、涙を流す。

ただそれだけのことで、別れを惜しむ情緒豊かな自分を演出できる。

涙は女の武器だ。

よくそう言われるけれど。

実際、その通りだと思う。

いつでも、どこでも、泣ける女は最強だ。

ちらりと涙を見せるだけで、簡単に周りの同情を買える。

「かわいそうなわたし」を演出することは、容易だ。

ずっと昔は、すぐ泣く女が大嫌いだったけれど。

嘘泣きを覚えた今、泣ける女なぞ恐るるに足らない。

感情を込もっていない、涙。

多少の演技力は要されるものの、嘘泣きかそうでないかを見破ることは難しい。

仮に嘘泣きではないかと思っても、口に出すことは躊躇われる。

それが自分の利権に関わるのなら、なおのこと。

下手に糾弾してしまえば、自分の立場が危ぶまれてしまうリスクがある。

涙は、それほどまでに人を惑わせ、惹きつける。

完璧といえるまでの嘘泣きを身につけた、わたし。

ずっと涙を武器とばかりに利用し、数多の困難をすり抜けてきた。

なんて世渡り上手なんだろう。

密かにそう自負していた。

だが、今、わたしは泣けない。

嘘泣きではなく、本当の意味で。

喜怒哀楽の感情に伴い涙を浮かべたとき、ふと思うのだ。

これは、嘘泣きか、それとも違うのか、と。

わからない。

嘘泣きに頼り生きてきた代償に、わたしは本物の涙を失った。

この先、本物の涙を取り戻せる日が来るのかは、わからない。

嘘泣きは便利だが、不完全だ。

今さら気づいても、もはや遅い。

かもしれない。

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