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”Subjectivity”と”Identity”のちがい(その1)

Claire Kramsch: Identity vs. subjectivity

こちらの動画を見て、Prof. Claire Kramsh (以下、Prof. C.Kと略します)
論文・著作で取り上げられる”Subjectivity"と”Identity”との違いについて
わかったことをまとめてみます。

外国語学習環境における学習者を見る時に、Identityという用語は
そぐわないのでSubjectivityを用いる。
まず、Identity研究で著名な以下の3名の研究者の用いる
IdentityについてのProf. C.Kによる分析は以下の通り。

1、ボニー・ノートン(Bonny Norton) [21:10あたり]

(彼女は南アフリカで教育を受け、社会正義追及についての強い意識を持っている)
アイデンティティとはポリティカル アウェアネスと深く関わりがある。
アイデンティティは北米の民主主義社会において移民に「声」を与えるためのもの。その「声」とは、移民として第二言語学習者の立場であっても北米社会で特権や権威を得る権利があると主張するための「声」。
よって、アイデンティティは政治的な影響力と政治的正当性を手に入れるための手段。アイデンティティは交渉によって作り上げ、積み上げ、構築していくもの。さらに、
agency”という用語は英語圏の語彙で、アメリカンドリームに満ちた用語。
negotiate”という動詞は平等や対等性を目指す民主的な言説において使われる語。
participation"という用語も(社会的?)リソースにアクセスするという文脈において、同上。

2、アネタ・パブレンコ (Aneta Pavlenko)  [22:59あたり]

(彼女はウクライナ出身の米国移民)
 アイデンティティについてのキー概念は「個人の再創造、 個人の再構築」

3、デイビッド・ブロック(David Block)   [29:33あたり]

 ヨーロッパのエラスムス計画により エリート学生が1年間ほど教養課程の
最終段階でフランスに留学してフランス語を学んでも、それはアイデンティティワークを承認させるような行為とはならない。 社会システムの点からも それは官僚主義的に両国を行き来するだけという背景を考慮すべき。

アイデンティティとサブジェクティビティの分岐点
[30:15/ 32:30/ 35:27あたり]

<二つの異なる理論的背景>
Identityは 言語の多様性を認め、
アメリカの民主主義イデオロギーに適合する
文化の多様性 やその政治的言説を背景とする

Subjectivityはポスト構造主義理論やフェミニズム理論
を背景とする。特に、2009年の著作「Multilingual Subject」は
ジュリア・クリステヴァの理論から影響を受けている。
その人の使う言葉がその人の現実を作り、言語こそが私たちの生や、
イデオロギーを構築する。
また、上に述べたように「Negotiate」や「Participate」や「Resourceにアクセスする」という用語は経済用語であり、外国語として語学を学ぶ学習者の分析にはそぐわない。

フェミニスト理論ポスト構造主義理論の言説から学習者の変容(メタモルフォーシス)に関わる要素として、語学教師は学習者のサブジェクティビティの構築、「シンボリックフォーム」を教えることをめざすべきである。

それは、学習を政治的な視点からの投資と捉える経済的な背景に依拠する
概念(つまりIdentity)を用いた外国語教育観とは異なる。

この働き(言語教育観?)に立ち、学習者たちの感性・想像力・記憶を刺激し、未来・過去・現在にわたり「Symbolic Form」と「Subjectivity」の共鳴を生み出すことができる。学習者たちはそれぞれの宗教的・社会的・文化的な自己のカテゴリーの中で 複言語話者として、サブジェクティビティ(「をする/を行う」?)プロセスの中にいる。 

感想(というか言い訳)
御年90歳に近いProf. C.Kの迫力ある講演です。が、内容的にも
パワフルな語り口・お声に慣れず聞き疲れしてしまうことが多く
時間がかかりました。YouTube英語字幕・日本語訳に頼りながら既存の知識とフル活用しても、現時点で整理できたのはここまで、、、です。

が、本命となる部分の「学習者の語りの分析」の視聴、理解にも
再挑戦してみます。(数回視聴しててみたのですが、挫折続きで。)
(その2)に続きます!