8月11日(火) ~シュンのひみつ日記
おとといの事件から、もうカメラをさわってない。なんか、こわい。
もうカントクもはいぎょうかもしれない。スタントマンをけがさせてしまったんだから。
やることがないので、たまっていた夏休みの宿題をやった。何かやってるほうが、時間が過ぎてくれる。
おやつがないかなと思って、居間に行ったら、テーブルに画用紙が置いてあった。「ぼくのおとうさん」という題名で、ぼくが一年生のときに学校で描いたやつだ。魚を抱えた父ちゃんの絵に、きたない字で、
「ぼくもりっぱな魚師になる」
だって。師という漢字をがんばって書いてやろうと思ってたら、漁のほうを間違えて「魚師」になってしまったんだった。
あの頃も今も、ぼくは漁師になろうと思ってる。父ちゃんのあとをつごうと思ってる。けど、ぼくには誰にも言えないひみつが、まだある。ザコ兄にだけはばれてしまったけど。それを知ったら、父ちゃんはがっかりするだろうな。「こいつはもうダメばい」とか言うだろうな。
あれ? でも、何でこんなとこに置いてあるんだろう。
晩ご飯のあと、部屋でクッキングパパを読んでいたら、蓮姉が勝手に入ってきた。
「入ってくんな、バカ姉」
「お父さん、漁師やめるってよ」
え? 何で?
「船ば売るって。お金作るために。あんたのせいやけんね。お父さんから船ば取ったら何が残るとよ? うちはどうやって食べていくとよ?」
何が何だか分からない。あのマツザキにちりょうひとか払うため?
「あんたのせいで私の将来もめちゃくちゃやが。もう死ね!」
蓮姉がごみ箱をけり飛ばして出ていった。母ちゃんと蓮姉が言い争う声がしたけど、ぜんぜん耳に入ってこなかった。
漁師をやめる? ウソやろ? ぼくは考えないようにした。こういうときは、時間がたてば何とかなる。明日できることは、今日するな。ふじこふじおというマンガ家が言ってた。
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