7月31日(金) ~シュンのひみつ日記
またみんなで西新のローソンに行った。ザコ兄は今日もバイトしていた。
「ザコ兄、きのうはごめん!」
ぼくとユイ、タケちゃんとノブ、いっしょに頭を下げた。「まじめに働いてるのに、じゃましてごめんなさい」と、泣きそうな顔でぼくたちはあやまった。
「なんや、そげんことわざわざ言いに来たとや。もうよかって」
「でも、ホントごめん!」
「気持ち悪いったい、ガキっぽくないことすんな。ファミレスでも行くか。もうちょっとでバイト終わるけん、待っとけ」
ザコ兄が近くのサイゼリヤに連れていってくれた。
「ひとり五百円までやぞ」
ザコ兄ちゃん、大好きだ。
「ほらほらお兄さん、どんどん飲んでくださいよ」
ぼくたちはザコ兄にドリンクをたくさん飲ませた。
「なんやお前ら、今日ヘンやぞ?」
早くトイレに行ってほしいのだ。そのとき、ザコ兄のケータイが鳴った。ザコ兄はあわてたように、「お前らちょっと待っとけ」と言って、ケータイを持って出ていった。
「よし、今がチャンスやぜ!」
ぼくは、テーブルにザコ兄が置いていったタバコから一本抜きとった。そして、ピンセットでタバコの葉っぱをかきだした。あるていどすきまができてから、そこに爆竹をしこんだ。ひもが先っぽになるようにして。
「ヤバい! 佐古さんもどってきた! シュン、早よ直せ!」
「分かっとう!」
ぼくがタバコを元通り箱に直したとき、ちょうどザコ兄がもどってきた。
「お前ら、すまんけどそれ飲んだら解散な。ちょっと用事ができた」
ザコ兄の顔は、何でかバイトのときよりまじめだった。
でもカントクとしては、爆発するところを撮らないとドッキリにならない。
「じゃあ尾行するか」
ぼくたちはザコ兄のあとをつけることにした。ユイが来てくれるかどうか心配だったけど、「たんていごっこみたいで楽しい」と、ノリノリだった。
ザコ兄は、そこから歩いてすぐの地下鉄乗り場におりていった。カードで改札を通っていく。
「どうしよ、おれスゴカもニモカも持っとらん」
「ぼくもやー」
「切符買えば良かろうが」
タケちゃんに言われて、ぼくとユイとノブは切符を買った。どこまで行くのか分からないので、一番安いやつにした。
ザコ兄の乗っている車両だとばれるので、一つとなりのやつに乗って監視していた。ホントにたんていごっこみたいだ。ザコ兄はずっと暗い顔をしていた。
十分くらい乗ってザコ兄が降りたのは、中洲川端駅だった。父ちゃんがしょっちゅう行ってる悪いところって、このへんかな。
どこかへ歩きながら、ザコ兄はタバコを三本吸った。どれもハズレだった。
「なんかこれって、ロシアンルーレットみたいやない?」
「ホントやな。ザコ、早よ死なんかなあ」
ふくやの本店を通りすぎて、どんどん周りは飲み屋ばかりになっていった。いろんなところに「ポッキリ」って書いてある。何をぽっきり折るのかな。まだ昼間だから人はいないけど、夜はどんなことになるんだろう。
ザコ兄が狭くてきたない道に入っていって、そこでケータイを出した。どこかにかけているみたいだ。しばらくして、すぐ近くのビルのドアが開いて、スーツのおじさんが出てきた。鼻の下にひげがはえていて、金色の腕時計をして、サングラスをかけていた。いっしょに出てきたスーツの人はザコ兄くらい若くて、でもプロレスラーみたいにごつかった。その人は、金色の太いネックレスをしていた。
「おう、おそかったなアキラ。夜までまだ時間あるけん、どっかでメシでも食うか」
ひげのおじさんが、ザコ兄に言った。低くて、ふつうにしゃべってるのに雷みたいな声だった。アキラって、ザコ兄の名前らしい。
「お前、タバコ持っとらんや? いまきらしとってな」
「は、はい! どうぞ!」
ザコ兄が、自分のタバコをひげに渡して、ライターで火をつけてやった。そしたらいきなり、ぱーん! ってタバコが爆発した。忘れとった!
「おいこら、何のつもりかきさん!」
「佐古さん、ケンカうってるんすか?」
ひげとプロレスラーがめっちゃ怒ってる。ザコ兄も、わけが分からなくてびっくりしている。
「何とか言わんかこら!」
ひげがザコ兄をなぐった。車のドアを閉めるときの音がした。
「すんません、マツザキさん!」
頭を下げてあやまるザコ兄を、ひげはけりとばした。
「すんません、すんません! ぼくにも分からんとです!」
ぼくたちはこわくなって、そこから逃げた。
ザコ兄、なんかごめん。
晩ご飯の頃にはもうすっかり忘れていたんだけど、あのときユイがボソッと言った言葉が気になっていた。
「あのおじさんって……」
何だろう。知り合いなのかな。
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