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8月29日(土) ~シュンのひみつ日記

 ノブに言われた時間に、東の浜のアジトに行った。
 階段のところに、ノブがいた。その横に、タケちゃんも。スマホでゲームか何かやってるみたいだ。あのときもこんな風に雨がぽつぽつ降ってたっけ。

「あ、シュン来た」
 ノブが言うと、タケちゃんがハッとしてゲームをやめた。気まずそうだ。でも、ぼくのほうがもっと気まずい。
「さあ二人そろったね。それじゃあ仲直り、どーぞ!」
 いきなりかよノブ! Mステか!
「お、おう……久しぶりやな」
 やっぱり素直になれない。向こうもだまったきりだ。長いちんもく。

 そのとき、「ぷう~っ」とマヌケな音がした。こんなときにタケちゃんがおならをしたのだ。ぼくはもう気が抜けてしまって、笑ってる場合じゃないのにこらえられなくなった。
「何しようとやって」
「お前やろうが」
「オレやないったい」
 そしたらノブがすまなそうな顔で、「ごめん」と言った。
「どげんしたらいいか分からんかったけん、へーこいてみた」
 お前か! なんかもう、ケンカとかどうでもよくなってきた。タケちゃんもそうみたいで、三人で笑った。何となく仲直りしたみたいなふいんきになった。

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 それから久しぶりに三人でアジトの中に入った。ガラクタばっかりだけど、やっぱりここが落ち着く。
「あー、あのさ。ユイのことやけど」
 タケちゃんがいきなり言ったのでドキッとした。
「なん?」
「うちの親、教師やけん、どっかから聞いたらしいっちゃけど……夏休み終わったら、帰るげな。ブラジルに。家族三人で」
「帰るも何も、日本人やんか。なあシュン?」
 ノブがのんきに言った。ブラジル行きのことはもう知ってたけど、まだ日本にいたんだ。ってことは、あさってが最後? いや、あさってにはもう飛行機に乗るかも。どれくらい時間かかるか知らんけど、ブラジルは遠い。

「シュン、いいとや?」
 タケちゃんが、かしこそうな顔で聞いてきた。あのときはちゃんとお別れができなかった。チャンスは明日しかない。
 でも、何をどうする? ここ最近、ずっと考えてた上映会のこと。ユイの母ちゃんと野中のジジイは仲が悪いから、島にはもうぜったい来ないはず。島を出たユイに、どうすれば見てもらえるだろう。

 アジトの中を見回してみた。布、布……カーテン? いや、カーテンじゃダメだ。
「あ……」
 何かピーンときて、窓のカーテンをめくってみた。
「これや……!」
 タケちゃんとノブは、ぽかんとしてぼくを見ている。
「明日の夜、上映会やるぜ」
「は?」
 だいじょうぶ。これならぜったい、いける!
「ちゃんと送っちゃらなな。おれたちの、主演女優やもんな!」

 今日の夜は、博多湾の花火大会だった。
 直前まで雨が降ってて、中止かもと言われてたんだけど、ギリギリでやんだので十五分遅れでスタートしたらしい。

 家族はみんな浜へ見に行ったけど、ぼくはそれどころじゃなかった。部屋にこもって、明日のためにビデオテープをひたすら編集した。
 ユイ、待っててな。

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明日のにっき

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