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#527 形式陶冶という考え方

 西洋の近代教育史の偉人にジョン・ロック(1632〜1704)がいます。
彼は、名誉革命を経て王政から議会制へ移行した時代にイギリスの政治、経済、そして教育に「自由主義の父」として新たな価値観を吹き込みました。
 
 彼の教育思想の中に「形式陶冶(けいしきとうや)」があります。形式陶冶とは、「単に知識をあれこれと子どもたちに教え込むことではなく、その知識を使いこなす能力、それをさして「形式的」というのだが、それを発展させることで、思考力(記憶力・推理力・想像力などの精神的能力)がつく」という考え方です。

 ある学びの概念的理解を通じて、他の学びに活かすことが大切であるという彼の思想は、現代のアナロジー思考に近しいものがあるでしょう。

 当時の西洋では実存主義(自然科学の実証的思考を背景に発達した教育思想で事実・経験・実践などを重視)が浸透し、これまた有名な教育学者であるコメニウス(1592〜1670)が提唱した実質陶冶(学習内容の実際的な価値に注目し、実生活の中で役にたつ具体的・個別的な知識・技能の獲得を目指す思想)が主流でした。

 コメニウスが学びの「木」に着目したのに対し、ジョン・ロックは「森」に着目したと言えるでしょう。

 学びにおける「森」と「木」は密接な関係性を持っていますが、特に現代教育の歴史を見れば、その個別的スキル(つまり木)がどうしても重要視されているように感じます。

 一方、個別的なスキルは生成AIなどの誕生によって、その価値が近い未来には今よりは確実に下がってしまう。自分たちのスキルを「資本」として、お金を稼ぐシステムの中にいる私たちにとっては大変な時代がやってきます。

 だからこそ、今こそ学びの「森」の視点が重要だと言える。様々な学びを有機的に繋げることによって、今までにない新たな価値を想像することができるのです。そしてそんな学びを伝えていくために学校教育は存在する。

 ぜひ、形式陶冶(けいしきとうや)という概念を大切にして欲しい。


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