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除雪《iquotlog》

 寝室から布団をひっぱり出して、リビングに敷く。子どもたちは跳ね回り転がり回って喜ぶ。その様子を暗い夜のバルコニーで洗濯物を干しながら眺める。
 いつもは子どもたちが寝室に入ってから読書をする部屋が、明かりを落とされて暗くなった(先日の記事で書いた、夜空投影機は作動している)。
 洗濯物を干し終えて、キッチンのダウンライトの下で、昨日から読んでいる司馬遼太郎の『草原の記』を読んでいると、捨てられたキャベツの芯に小蠅がやってくるくらいの頻度で、ふたりの子どもたちが近寄ってくる。
「のどがかわいた」
「ううぁー」
去っていく。
「おちゃちょうだい」
「ちゃっ」
また来る。
 しばらく妻のそばでふたりとも何か言いながら騒ぎっぱなしである。自然と体温が上がる。そして上の子が、
「あついよー! エアコンつけて! リモコンは?」
と、言いながらたかる。ぼくはうるさそうにまた本を伏せて、リモコンを手に取る。すると妻が、ぼくのほうを見て、
「除霊にする?」
と言うので、
「除湿ね」
と返して、ピ、とスイッチを入れた。エアコンは動き出し、妻は自分の言い間違いに大笑いして、それがなんだか楽しそうだと思った娘は、
「え、なに? じょせつってなに」
そう言ってはしゃぐ。妻は笑っている。ぼくも内心では笑っているけれど、表面上は呆れている風をよそおう。そのほうが面白くなるのがわかっている。そこへ娘が途切れない質問を投げかける。
「なに? じょせつってつよいの?」
 ぼくはつとめて冷静に、
「除雪はね、とっても強いよ」
と言った。
 おかしかった。

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