ソファに並んで
冷蔵庫から缶ビールを取り出し、テレビのスイッチを入れ、リビングのソファに腰を掛けた。薄茶色のレザーはエイジングが進み、このソファと共に月日を重ねてきたことを嬉しく思う。今夜も、テレピーにスマホをセッティングした。
「おつかれさまー」テレピーの向こう側から、いつもと変わらない彼女の声が聞こえる。
「いやー、つかれたよー、あ、もうビール開けた?じゃ今日も、乾杯」「かんぱ〜い」
遠距離中の彼女との「テレピー晩酌」は、1日を締めるルーティンとなっている。付き合いはもう長い。会話は他愛もないことだし、何もしゃべらない時間も多い。互いの部屋の環境音を共有し、そばに気配を感じると安心する。
互いの顔を見つめ合って…ということはあまりなくて、ただただ繋がっているということが、僕らにとっては大切なことなのだ。
いつも彼女がテレピーのアプリを操作する側。僕の部屋のテレピーが、時折、くるくると回る。僕のテレピーは、僕の隣で、ソファに腰掛けている。離れて暮らしていても、同じソファで隣同士座って過ごしているような感覚。
このソファは、彼女と一緒に買いに行った。5年くらい前になるだろうか。これからも長く一緒に暮らすつもりで、二人で選び、お金を出し合って、部屋に迎え入れたのだ。3年間一緒に暮らした後、彼女の異動が決まった。新しい職場は、この家から通うには少し遠い距離で、別々で暮らすことになった。2人で話し合い、ソファは、僕の部屋に置いておくことにした。
遠距離…と言っても、在来線から新幹線を乗り継いだら一駅。週末はたやすく会いに行けるくらいの距離感。それでも、日常生活において、お互いが存在していることが、当たり前になっていたので、仕事から帰ると、彼女の不在を強く感じるようになり、平日の夜は特に寂しさが募った。いざ電話をかけてみると、具体的に話したい内容があるわけじゃなかった。会話を重ねるというより、そばに存在を感じていたかった。
そんな時に出会ったのがテレピーだった。これなら、スマホを置いたまま、繋ぎっぱなしにできるし、自分のタイミングで、相手のテレピーを回転させることができるから、まるで一緒にいるような気分になれた。
いつも、乾杯だけは一緒にして、あとはそれぞれの時間を過ごす。彼女がマニュキュアを塗り直しているようで、時々「あ、はみ出しちゃった」とつぶやいたり、同じテレビ番組をそれぞれ見ていて、同時に爆笑したりする。彼女とは笑いのツボが一緒だなあ、と改めて感じて安心する。
僕が冷蔵庫に、2本目の缶ビールを取りに行きながら喋っていると、彼女はテレピーを操作し、僕の方へ視線をやる。
「私も、2本目持ってこようかな〜待ってて!もう1回乾杯しようよ」と彼女は言った。
こんな風に、なんの変哲もない夜の時間を、離れていても共有できる。テレピーは、僕らに欠かせない必須アイテムだ。
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