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ビジネス書が読めない。

本が読めない。

ちょっとした衝撃だった。子供の頃から本ばかり読んでいて図書館に入り浸っていた私。学生時代は毎回一度に5冊借りて1週間で読んで、また5冊借りるを繰り返していた。休みの日はシリーズ物を朝からずっと読み続けて母に『電気くらいつけなさいっ』と言われて日が暮れて居る事に気づくような生活でした。弁当屋にあるまじき発言ですが、ごはんと本なら本をとります。

大人になってからは、多少ペースは落ちたものの文庫本なら1日あれば終わるので本屋に行くとだいたい3冊まとめ買い。そんな私が30歳手前で気づいた事。

私はビジネス書が読めない。

自分たちで店をはじめる少し前から夫が経営の勉強のためにビジネス書を読み始めました。普段全く本を読まない夫が珍しく買ってきたので試しに私も、と読み終わった本を借りてページをめくってみたのですが。

全然、頭に入ってこない。頑張って読み進めてもペースがめっちゃ遅い。活字中毒を自認していた私にとってはかなりショックでした。よく周りから本が読めないとか、読もうとすると眠くなるとか聞いてどういう事?って思ってたけど初めて気持ちが分かった気がしました。

思えば、私がずっと読んできたのはファンタジー系児童文学に始まり大人になってからは小説ばかり。世界観に没入するタイプなので読んでいるというより映像を観ている感覚。ビジネス書は情報なので世界観やストーリーが無い場合が多く入り込めないんです。純粋に文字を読む作業になってしまう。

とはいえ、商売をしていると『自分以外の目線で何かヒントが欲しい』と感じる時があります。でもいわゆるビジネス書コーナーには心惹かれる物が見つからない。

そんな私がたどり着いたオススメの本。

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高田郁さんの『あきない世傳金と銀』シリーズ。この作者さんだと『みをつくし料理帖』の方がドラマや映画にもなっているので知っている方が多いのかな?みをつくしの方も料理人や飲食業目線で読んでも面白い作品ですが、あきない世傳はより商売にフォーカスしていています。時代設定は江戸時代。

主人公の幸という学者の娘が呉服商に奉公にあがり、その店の跡取りに嫁ぐ事になります。その後様々な事情から幸自身が店主となってしまう。時代的に女性が店主になる苦労や工夫も面白いですが、それを抜きにしても競合との差別化のために新しいディスプレイを考えたり、傘や手拭いに屋号を入れて貸し出すノベルティグッズ、歌舞伎や相撲などのイベントに合わせて流行を生み出すコラボ要素など今に通じる商売の基本が沢山出てきます。今で言う業種ごとの組合や行政との駆け引きも、あるあると頷きながら読めます。

何より、問題に当たるたびに主人公や周りの奉公人たちがひたすら考える。現状の問題点、世の中の状況、ライバルの考え、自分達の弱み強み、何よりお客さんの生活背景や心情。そういう事を全部受け止めながら、行政に対しては法律の穴を見つけ相手の立場を利用して時期を待つ。業者同士にはキチンとメリットを提示して協力を仰ぎ、お客さんにはそれぞれのニーズに合った物をタイミングよく提案する。

時代も職種も違いますが、『考え続ける』『相手をよく見る』という基本姿勢がとても共感出来ます。人気の役者や力士に衣装提供したり『見せ方』に気を使う所もプロモーション的で楽しい。作者の方が昔の事も今の事もしっかり調べて書かれているんだろうなぁと感心します。

ビジネス書もある意味では『先人の知恵』であるわけですから昔の商売から学ぶ事も沢山あるはず。それを、上手くストーリーにして伝えてくれるこの本はとてもありがたい存在です。

シリーズを通じて『買うての幸い、売っての幸せ』という言葉がテーマになっています。『お客さんのために!』だけでも『商売を成功させる』だけでもなくお互いの幸せの上に成り立つ商売を目指す所は今の時代にも合っている気がしますね。その為にベストよりベターを選ぶ時もちゃんとあるのが現実味があって良い。

ビジネス書的な見方で感想を書いてきましたが、この作家さんの素敵なのは町の情景描写に使われる言葉がとても美しい事。最初の一文でスッとその世界が入る事が出来る。私はその瞬間がとても好きです。町も人も、ちゃんと温度や湿度があって生きている感じ。

ビジネス書としても物語としても美味しい本、秋の夜長にいかがでしょうか。


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