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迷惑をかけないで生きることなんて、だれも出来ないから。

エッセイストになりたい。
つべこべ言わず、ネタがないから、とか、
時間がないから、とか。

やらない理由を鼻息荒く探しては「とったどー!」と雄叫びを上げる、弱っちい自分とはオサラバする。

なんでもいいからかく。
見て、感じて、考えて、つなげて、緩めて、解いて、かく。

オールナイトニッポンをたまたまYOUTUBEで何気なく聴くことがあった。
ああこれができたら私は人生がもっとたのしくなるのか…もはや絶望感を覚えた。

もう、なんか、めちゃくちゃ楽しそうなのだった。おばあちゃんが道端を歩いていた話だけで楽しそうだった。

な ぜ わ た し は 、、?

私たちは、感動するアンテナを摩耗してしまっているのかもしれない。
だれかの感動と自分の感動を取り間違えて、
いつの間にか感動した気になってる。

ちがう、だめだ、もっと感じて、震えなきゃ。

で、久々に震えることがあった。

この前、どうしても見逃せないことがあった。
最寄駅で電車を待っていると、80歳くらいのちいちゃなおばあちゃんが、道を訪ねてきた。

「わたしね、ここに行きたいの。でもね、どうやっていけばいいかわからないの。わからないの。」
泣きそうなほど不安げなおばあちゃんに、
わたしはメモに書いてある住所を調べて行き方を教えてあげた。

途中から話し方や内容を含めて、たぶん認知症だな、と分かったけれど、なんだか放っておけなかった。

効率的の真反対に在る、でも。
生きようとしていた。たしかに。

本当に失礼な言葉で言うと、
明らかにおばあちゃんは、
私に迷惑をかけていた。

なんば駅にいきましょうと伝えて、
いっしょになんば駅で降りた。

改札を出ようとすると、
ピンポーンと改札が鳴った。
「乗車駅下車」と表記された液晶。

おばあちゃんは、なんば駅から乗っていたのに、なんば駅についてきて改札を出ようとしていた。

その時、一瞬でもショックを受けた自分がいた。そういうことか。なんとも言えない切なさがあった。

つまり、私が今案内している時間は、もしかするともう一度繰り返されるかもしれないし、もしかしたらおばあちゃんはもはやその行きたい場所とやらに、すでに行った帰りなのかもしれない。

ひとこと、「えっ?なんば駅から来たんですか?同じ駅ですよ?」と言えたけれど、たぶんこのひとことは言っちゃいけないと直感的に感じて、口に出すことをやめた。

その時、熱を帯びて感じた感情。
おばあちゃんのひたむきな「生」と、事実はさておき、その場所へ行きたいという純粋な想いを、たったひとり私が受け止めてあげないといけない、という使命感に近いものを感じた。
そしていつか、自分もこうして誰かに迷惑をかける存在になる事実を受け容れる時間として、過ごすべきだとも自分の心が静かに叫んだ。

そして、この迷惑を受け入れるほどの余裕がない私でありたくなかった。30分も人に時間を割けない人生ってなんなんだ。

正直、本当は午前中に仕上げなきゃならない資料があったけど、間に合わなくなるなと分かりつつ、30分くらいかけて駅までいっしょに行った。

そもそも、迷惑をかけるってなんなんだ。
悪いことなのか。

そもそもこの世に存在していることが、
誰かにとっての迷惑であるかもしれない。

でも、それでも。

だれかを愛したいと思う。
尽くして、与えて、最後には何もなくなる。

それが人間だ。

御堂筋線から南海電鉄に乗り換えるということで、切符を買うお手伝いをする。

そして改札まで見送った。
その時におばあちゃんがひどく申し訳なさそうに私に言った。

「ごめんね、ごめんね。私は何にもお返しができないのに、こんなに良くしてくれて。迷惑かけたのに、ほんまに申し訳ないわあ。」

涙が出そうになった。
あなたが迷惑をかけてくれたおかげで、
気づけたことがあった。
今の自分の余裕の無さや、
器の小ささを見つめることができたんだよ。

「ぜんぜん大丈夫ですよ、とりあえず7番線に乗るんやで!7番線ね!」

と、涙が出ないように気丈にあえて振舞った。

おばあちゃんはありがとう、
と頭を下げて改札を入っていった。


何気ない日常のワンシーンだが、
私にとっては人生の大きな1ページになった。
たぶん、一生忘れないと思う。

私は気付いた。
だれかに迷惑をかけているようで、
それは与えているのかもしれない。

正しいか?効率的か?最新か?
そういう芯のないモノサシで社会を、人を、測ろうとするような傲慢な考えは、置いていこう。捨ててしまおう。

だれもが迷惑をかける、それが生きることだから。そんなことが、当たり前で、微笑ましく受け容れられる世の中でありますように。

私はおばあちゃんを見送った帰り道、
会社に行く電車の中で静かにひとり願った。

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