知らない人のお家で、メキシコ人にアイスをご馳走して貰った話。
旅に行くと、だいたい面白い事件が起こるタイプだ。自負している。
起こる事件は多種多様。やっぱり一番お気に入りの話は、シャルウィーダンス?と夢のような誘い文句を受けたかと思いきや、1時間レッスンまがいのスパルタ教育を受けた。汗だくで足パンパンになったサンフランシスコのサルサイベント。今でも忘れない。
つい先日、旅というほどでもないが、
大阪のとある街へ訪れた。
(旅という行為を、知らない土地へ行くこと、と定義すれば立派な旅といえるが)
北加賀屋。
初めて聞く人も多いだろう。
住之江区という、梅田からだいぶ南へいった場所。
都会的な要素はほぼなく笑、かなりの下町。
ここ最近、まちづくり界隈ではアートの街として栄えている注目の町でもある。
長屋のカフェだったり、古民家を改装した複合施設があったりと、前から情報を仕入れては気になっていた。
そんな場所だったので、やはり共に行く人も慎重になっていた。なんというか、カオスを受け入れて、尚且つ楽しめるような人って、なかなかいないんだ。
で、本当に偶然のタイミングだった。公私共にお世話になっている私の中でのお姉さん的存在の方と、お茶をしばくことになった。
少しこの「お姉さん的存在」の方の説明をしたい。世界一周を終えたのち独立された、超絶仕事もできる頭脳派だけど関西人的なスタンスを持っている方。心に寛容さが常にある。愛に溢れている人。(基本私が大好きな人たちは、【誠実さ】と【愛】を持っている人ばかりだ。まじこれは自慢だかんな。)
公私共にお世話になっており、彼氏と喧嘩した時、元気出してねと珈琲ドリッパーをメッセージ付きでくれたことは、きっとずっと忘れない。
行きたいところある?と聞かれ、思わず「北加賀屋!」と答えてしまった。直感的に、この人となら行っても楽しめるだろうと、思ったんだろう。こういう直感は大体当たる。
まずはランチへ行き、美味しい定食をもぐもぐと食べた。そのあと何をするか決めてなかったので、ネットに載っていたちぃちゃなPDFのマップを見て、どこに行こうかなー、と悩んでいた。
隠れ家と題された、メガネ屋さん兼アクセサリー屋さんがあり、こりゃあなんだと気になった。5cm×3cmの小さな画像からただならぬ何かが漏れていた。何となく、文章と空間に奥深さを感じた。
多分、共にいる人が大きく影響するが、
面白い匂いを嗅ぎつける警察犬的能力がある。
とりあえず行ってみると、普通の家。
もう、ほんと、どっからどう見てもただの家なのだ。
ドアは閉まっていた。
・・・入りづらい。入りづらすぎる。
途中で合致した飲み会で、話し手の話が2割くらい進んでいて、説明するにも早いと皆が考えるくらいのタイミングくらい、入りづらい。
ただ、私はきっとこの先に、何かがあると確信していたので、ふっと手を伸ばすことができた。で、後ろに構えていたお姉さんは、何があっても動じず、好転させてくれるようなパワーがあると分かっていたので、踏み出せたのだと思う。決意を後押ししてくれるのは、安心感ってこともあるんだな。
ドアを開けると、あっ!と男性の声。
入っていいですか?と聴くと、いいですよー!と優しい声。その主が出てきた。
完全に、異世界の人だった。
ショッキングピンクのTシャツにコーンロウのヘアー。でも眼差しは少年のよう。愛くるしい。
あまりの見た目のインパクトに、漫画のように1歩あとずさりしてしまったが、直感的にきっと悪い人ではないと分かった。そう、直感は大体当たる。ただ、その直感が研ぎ澄まされているときは自分が自然体でいられているときなんだと思う。こうあるべきだ、という常識や羞恥で出来た鎧を背負っているときは、そういう判断はできない。
キュートすぎるワンコがまず出迎えてくれた。もふもふの最高峰、もふもふオブザもふもふ、という賞があればダントツで1位のもふもふ具合。
「わたあめちゃんっていうんですよ」
名前まで、劇的にかわいいな・・・・・・・
しかし、びっくりだ。なんだか違う世界線に間違えて足を踏み入れてしまった気しかしなかった。なぜなら部屋の中央に和式トイレが佇んでいたからだ。
和式トイレを覗くと、眼鏡が土の上にいくつか置いてあった。ジョンレノンの展覧会に来た、オノヨーコの気分だった。(関西人はすぐに盛る)
部屋を見回すと、眼鏡屋さんらしきものも、ちゃんとあった。どうやら本当に眼鏡屋らしい。(信じてなかったんかい)
眼鏡の測定器、糸のこぎり機、視力測定(のような)ポスター、眼鏡の設計図など。
「2階がギャラリーになってますよ、よかったら見ていきますか」
わたあめちゃんの飼い主である、眼鏡屋さんが案内してくれた。
それはまた面白い空間で、山下さん専用の眼鏡や、唐辛子モチーフの眼鏡など・・・それは作品といってもよい、素晴らしいクオリティと愛らしさのあるユニークな発想だった。
これをみて、ふと思った。
この人は、眼鏡を愛しているんだ。
愛していなきゃ、ここまでできない。
そして眼鏡という小さな名脇役の役割や機能をしっかりと理解し、尊敬しているのだとも思った。
オモシロけりゃいいとかいう、上滑りで雑な発想は全くもってなかった。
しばらくギャラリーを見ていたあとに、
ふたりは旅人みたいだから一緒にゲストハウスに遊びに行こう!連れてってあげるよ!オーナーいるかなあー。まあいなくても行こうか。
と急にお誘いを受けた。
いなくても行くんかい!っとつっこみたくなったが、
その厚意が堪らなく嬉しくて、ワクワクした。
勝手に彼の中で、私たちは旅人になっていたことに、
ちょっとクスクスと笑いつつ、歩いて2分ほどの場所へ向かう。
こんにちは〜
挨拶をすると、外国人女性が出てきた。
おー!よくきたね!いまカレー作ってたの!
可愛い、カタコト。
メキシコ人の○○さんだよ。と眼鏡屋さんの注釈が入る。
眼鏡屋さんが、オーナーさんいる?と聞くと、
どうやら外に行ってていないらしい。
オーナーはいないが、
どんどん入っていく眼鏡屋さん。
ついていく私たち。
すると、彼女が質問してきた。
お水いる?あっ、アイスあるね!アイスいる?
ーアイス!?見ず知らずの人が急に来てアイス出す!?
あまりにも図々しくないかと思ったが、暑すぎて、アイス嬉しい!といつの間にか言ってしまっていた。
ゲストハウスの壁にはずらりとメッセージが書き込まれている。英語をはじめ、様々な言語とともに、イラストも描かれていた。
完全に、そこは異国だった。
旅って、距離の遠さじゃない気がした。
遠いけど近かったり、驚くけど懐かしかったり。
曖昧で複雑、でも初めての感情さえ生まれれば、
それは立派な「旅」なのかもしれない。
自分の中の深遠さを味わう時間。自分の未知に気づく時間。
他愛もない話をしながらアイスを待つ。
もはや内容はよく覚えていない。
でも、そわそわしながらも、すごく懐かしく温かいものを感じた。
迎え入れられるって、こんなにうれしいんだ。
アイスもただのアイスでは無く、
どうやら特製で作ってくれていた。
バニラアイスにチョコペースト、
上に冷凍のブルーベリーが数個。
金銭の交換ではない、本当に偶然の出会いからお裾分けしてくれたアイス。とんでもなく価値のあるものに感じた。
最高に美味しかった。
アイスを食べながら、いろんな話をした。メキシコ人の彼女も日本語と英語を混ぜながら話してくれた。
眼鏡屋さんが釣りが好きなこと、釣りをベースに旅をすること、わたあめちゃんの出生地、お姉さんの旅の話、私のパートナーの沙漠旅の話などなど。
ポツポツと話ながら、
いつの間にか時間は過ぎていく。
そろそろ仕事戻らなきゃ、と眼鏡屋さんが言う。
いつの間にかお会いしてから3時間くらい経っていた。
もうこんな時間か!
ありがとうございました。
とお礼を伝える。
帰り際、眼鏡屋さんがアイスのお皿を洗ってくれた。
自分のおうちみたいなものなんだろうな。
見た目によらず(と言ったら失礼すぎるが)誠実で礼儀正しい行動に、そりゃあ眼鏡屋さん出来るよなと納得してしまった。神は細部に宿る。
この行為を見て、境界線が曖昧になると、責任や役割の線引きも曖昧になると気づいた。こういう暮らしっていいな、とぼんやり思った。当たり前のことでも、自分の感性で、自分だけのルートで、辿り着いた違和感や好意ほど稀有なものはない。一生の宝だ。
帰り道、とぼとぼと二人歩く中、
「なんか夢みたいだったねー」とお姉さんが呟いた。
現実は小説より奇なり、なんていうが、
まさにそんな日だった。
いつもと少し違う場所に行く、相手に委ねる、場の流れに乗る、そんなことを意識すると、偶然の積み重ねの先に、自分が出会いたかった景色が広がるのかもしれない。
いつかだれかわからないけど、
初めて出会った人をおうちに招いて、
アイスをご馳走する夢ができた。
そのアイスを食べるのは、
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