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3位決定戦集中力切れてる説 (下)

⭐️⭐️⭐️⭐️
(星の数でこの記事のオススメ度を
5段階で評価しています)

(前回まで)

大学4回生の僕は夏の学生落語大会に
出場するため電車に乗っていた。
たまたま席を譲った女性が
審査員の1人であることに気づいた僕は
自らの落語の完成度も相まって
勝利を確信するのであった。



会場の最寄である日切駅に着いた。
そこは思っていたよりものどかな街だった。

バスに乗り換え会場に着く。

大会が行われるホールを見せてもらう。

広い。

でも 俺 はこのくらいの会場には
慣れている、
問題なし。

控室に荷物を置いて待機する。

他の決勝メンバーは各々の作業をしていた。

着物を準備する者、
大会から用意された弁当を食う者、
練習をする者

 俺 はただただぼーっとしていた。


落ち着かない。


 俺 は喫煙所に向かった。

 俺 はタバコをよく吸う。

ライブ前にも吸うし
ライブ中も吸うし
ライブ後も吸う。

季節は夏、施設外に設置された喫煙所で
日光を浴びながらタバコを吸う。



何かが起こる前の味がした。



いつもそうだ。
何かをする前、してる間、した後で
タバコの味は変わる。
火を消した 俺 は会場へと戻った。

軽くリハーサルが済み、
出番が早い演者は
着替えをはじめる。

 俺 の出番は最後の方、
着替えるのにはまだはやい。

またタバコを吸いに行く。

喫煙所にはもう1人
他の大学の先輩がいた

何かを成し遂げる前の味

会場に戻り
久しぶりに会う他大の知り合いや
関係者と話す。

落ち着かない

喫煙所にいく。
さっき来た時と同じ他大の先輩がいた。

彼は1回戦の対戦相手だ。


普段はその先輩と仲が良く、
よく話すが
この時は特にお互いに口を開かなかった。


先輩も落ち着かないんだろう

特に何も話さない
お互いに貧乏ゆすりをしながら
ただただ時間が来るのを待つ。


会場に戻る

いよいよトーナメントがはじまる。

出番までは長かった。

そしてむかえた1回戦
喫煙所で会った先輩が
高座に上がり落語をする。

それが終わるといよいよ 俺 の出番だ

高座に上がる。

ウケは上々

勝った、確実に

そう思った。

舞台を降りるとすぐにまた舞台に戻され
1回戦の結果発表

0ー5

勝った

まだ喜ぶ段階じゃない
 俺 は階段をのぼりはじめただけ

次は準決勝、
 俺 はネタを迷っていた。

ここを落とすわけにはいかない
迷いに迷った末 俺 は
春の優勝ネタを持っていくことにした。

準決勝までしばらく時間がある。

 俺 はまた喫煙所に行った。

そこには1回選を戦った先輩がいた。

お互いに顔を見合わせて
なんでよりによって
この状況で会うんだと
運命を呪った


とにかく落ち着かない
次が勝負どころであることは分かっている

ネタを頭の中で反芻する

急に不安になる

春の大会の時、この落語は6分の尺だった

だが大会によって制限時間は違うため
今は15分尺になっている。

今回、自分が新たに入れた
ギャグやボケは
本当に面白いんだろうか

直前になって不安になってもしょうがない

自分の感覚を信じるしかない

この頃の 俺 は違和感のあるツッコミを
落語に入れ込むことを意識的に行っていた。

例えば
「お前清潔感丸出しやん!」
と言ったものである

本来「丸出しやん!」のような言い回しは
直前にネガティブな要素や
相手を悪く言う描写が入ることが多い。

それをあえて褒め言葉などに
使うことによって
落語の情景に違和感を見出し
この人の落語面白そうという空気感を
作ろうと画策したのだ。

それが通用するのか

いや、通用させるしかない

 俺 が自らの手でシステムを完成するしかない。

会場に戻る



準決勝がはじまった。

 俺 は後攻だ

対戦相手が高座に上がった。
関東の同期、

あまり喋ったことはないが
実力はみんなが認めていた。

簡単に勝てる相手ではない。
だが、確実にしとめる

対戦相手が高座を降りた。

緊張のせいなのか
あまりちゃんと見れなかったが
出来はかなり良かったようだ

続いて 俺 が高座に上がる

出囃子が鳴る

ゆっくりと座布団に座り落語をはじめる


悪くない

ウケは先ほどの方が良かったか

少し疲れが見え始め
後半部分の間が狂う

あっという間に終わり高座を降りる。

やりきった。
その頃には相当の疲れが溜まっていた。

息が上がる。

落語というのは体力を使うものだと
改めて思い知らされる

舞台袖で水を一口飲む
心臓がバクバクしていた
3個目のネタを万全の態勢でやりきる
体力を残すような
そんな器用なことはできなかった。

息を整え
結果を聞くためまた舞台に戻る。

判定


4ー1


負けた



え?
負けた?

頭が真っ白になった。

ぼく負けたの?

気づくとマイクが口元にあった。

敗者インタビューだ


「いやぁ、事実上の決勝戦でしたねぇ」


精一杯ボケることしか出来なかった。


控室に戻ると後輩や同期が駆け寄ってくれた

口々に聞こえる
お疲れ様です!お疲れ!の声




そうか、ぼくは負けたのか




「3位決定戦頑張ってくださいね!」

え?

3位決定戦?

なんじゃそりゃ


なんで今まで1位を目指してたやつが
急に3位目指すんや?せめて2位やろ!


ぼくは大慌てで喫煙所に向かった
1回戦で戦った先輩がいた。


おこられた


タバコに火をつける

何かが終わった後の味がした。


あれ?
何かをしてる間の味は?
間飛ばしてない?


その時気がついた

ぼくは完全に集中が切れていた。


周りに後輩や同期、先輩がいる手前
集中力を保ってるフリをしていたが
これももう限界だ。

ぼくはスマホを見た。

昨日ぼくが送った

「あかん優勝してまう。」

の文字を見つめた。


なにを調子に乗っていたんだぼくは
決勝で負けるならまだしも

LINEを送った相手は
去年3位決定戦を経験した男だった。

ぼくは去年のその同期の言葉を思い出していた

「3位決定戦はまじで集中切れてたなぁ。
ていうかその前から切れてたけど 笑」

え?
な〜んや!

みんな切れるんやん

ていうかそもそもおかしいやろ!

3位決定戦出るよってなって
なんで
よし!3位を目指すぞ!
ってなれんねん!

そんなやつ最初から1位目指してへんやろ!

あれやろワールドカップとかの
3位決定戦も絶対集中切れてるわ!

どうせそうや!絶対そうや!

ぼくはその時まだ自分の3位よりも
自分に勝ったやつが決勝で勝ったら
まだ実質2位の可能性が
残ってるんじゃないかなどという事を考えていた。

会場に戻り落語をする。

これで勝っても3位、負けても4位



結果発表
勝ち

もはや票数すら覚えていない。

3位決定戦の僕の落語の内容は
散々なものだった。

落語は1人で喋る

そのため息継ぎのポイントが非常に重要で
このポイントで息を吸わないと
苦しくなってテンポが
大幅に崩れる箇所などが沢山出てくるのだ。

ほぼ全てのポイントを外した

枕(落語をはじめる前に少し話すやつ)
から落語への入り方も最悪だった。

「ぼく、なんの話してるんですかねぇ
まあ、そろそろ落語の方
入りたいと思いますけど」

ぼくは春の大会で
審査員の方に言われた言葉を思い出した。

「君は落語を蹂躙している」

その時、ぼくは
何でそんなことを言われないといけないんだと思った。

しかし今日の落語はなんだ!

まさに今日ぼくは落語を
蹂躙してしまったのではないか

控室に戻り
サークルの同期LINEで結果の報告

同期から返信が来る

「アチャー3位か!」

「とほほ」

「おつかれ!」


そうか

3位やとおめでとうも言われへんのか



いつもより丁寧に着物をたたむ


これがぼくの最後の大会

(完)

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