キモ手品師

⭐️⭐️⭐️
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僕が人生ではじめて
本格的なマジックを見たのは
確か小学校高学年くらいの時だった。

僕の家族は
母と従姉妹、祖父の誕生日が近く
１週間に集中しているため
この周辺日にみんなで食事に行って
お祝いをするという文化があった。

ある年の食事会はいつもとは違い
かなり豪華なものだった。

ホテルの中に入っている
中華料理店の個室にある
大きなテーブルで行われた
その集いは
意外な展開でスタートした。

皆が席に着くと
少し胡散臭い
しかし清潔感のある
３０代半ばくらいの男性が入ってきた。

僕は
彼の服装や持っている道具から確信した。

マジシャンだ

手品師というのは
非常に特殊な職業だと思う。

彼にはテレビに出演しているような
マジシャンともまた違う
エンターテイナーとしての
雰囲気が漂っていた。

マジシャンだ

第一印象でそう思った僕だったが
よくよく考えてみると
おかしな事が１つあった。

マジシャンを呼ぶというのは
もちろんギャラが発生するだろうし
ちゃんとした技術を持った人を呼ぶのは
安くもないだろう。

しかしうちの家族で
手品が好きという人間を
聞いたことがない。

わざわざ呼ぶか？

様々な疑いが浮かんだが
彼の正体はすぐに分かった。

僕が予想した通り
彼はマジシャンだった。

今からマジックを見ることができる。

僕は人生ではじめて
プロのマジックを
目の当たりにするという事実に
心を踊らせていた。

ショーがはじまると
その驚きの数々に
僕たち家族の歓声が止むことはなかった。

やっぱりプロはすごい

生で見ると
手の動きや開き方などがハッキリと見える。
それらの一つ一つが
素人の動きとは違っていた。

関節の使い方というか
詳しくはわからないが

最初、胡散臭く見えていた
彼がなんだか少しカッコよく見えた。

ショーの後半になり
彼は
誰か１人協力者が欲しい
と皆に伝えた。

なるほど

誰かをアシスタントにするわけだ。

一体何をしてくれるんだろう

僕の家族に
なんか剣みたいなん刺して抜くとか？

僕の家族のお金借りて破いて
元に戻すとか？

僕の家族の口からトランプ出すとか？
脇から鳩出すとか？

僕の予想に反して
行われたマジックは
アシスタントの手の中に入れたコインを
合図を出して消す
という物だった。

アシスタントに僕の母が選ばれた。

母が両手で
合掌の手の形で
コインを挟み
横にする

マジシャンが
それを上から包み込むように手を添え挟んだ。

その瞬間
母が顔をしかめながら
衝撃的な言葉を口にした

「気持ち悪い〜」

え？

何が起こったんだいま

僕は愕然とした

母は確かに言った。

気持ち悪いと

確かに中年男性に手を握られ
気持ち悪いと感じてしまったのかもしれない

でも普通
口に出して言うか？

家族が見守ってる中で

さすがに常識が
無さすぎるのではないか？

胡散臭いおじさんではあるけど
清潔感はある。

僕は思わず周りを見回した。

皆平然としている。

僕より年下である
いとこ達もおとなしく手品に夢中だ。

僕にしか聞こえてなかったのだろうか。

色んなことを考えていたせいで
集中出来ず、
気づいたらコインは消えていた。

見逃した。

しかし僕には
コインが消えたという事実より
母の発言の方が衝撃的だった。

数日後

僕の気持ちに
少し整理がつきはじめた時、

あの時のあの発言の真理を

改めて母に尋ねてみた。

母の言い分は

トランプカードの数字を言い当てたり
あるはずのない物が出現したり、
次々と様々な種類の
マジックが展開される中で
脳味噌が理解についていかず
その奇妙な現象の数々に対して
気持ち悪いと言った

というのもだった。

本当か？

そんな表情ではなかった。

小学校の時に
クラスの男子が女子に対して下ネタを言い
女子が
「キモっ！」
と返す

あの言い方だった

１０年近く経った今でも
あの時の真相はわからない。