追悼 特別な日

大晦日は小さい頃の自分にとって特別な日だった。
もちろん1年間の最後の日という意味では当然そうなのだが、この大晦日に限って僕はあることが許されたのだ。

それは夜更かしだった。

小さい頃、僕の両親は9時半になると必ず寝ろと言ってきた。
睡眠は本当に大切なので今考えるとありがたいことなのだが、まあ9時以降というのは結構面白いテレビ番組が多いし、別にその時間に眠くない時だってたくさんあったので、出来れば遅くまで起きていたかった。きっと僕だけじゃないだろう。そして僕はどちらかというと聞き分けの悪いクソガキだったので、毎晩ごねていたのを覚えている。恥かしい思い出だ。

ただそんな両親も大晦日だけは夜更かしを許してくれた。
それは小かった頃の自分にとってはとても大きなことで、僕は大晦日をクリスマスと同じくらい楽しみにしていた。
日中は年末の大掃除を手伝って、夕方には賑やかなお笑い番組を見始めて、夜になると家族みんなでご馳走を食べる。そしていつもだと寝なきゃいけない時間が過ぎてもガキ使を見て笑いながら年を越す。いつもより起きていられる3時間がとても嬉しかった。間違いなく1年に1度の特別な日だった。

これはもう10年近く前の話。いつからか分からないけど、夜遅くまで起きても何も言われなくなった。
今日もきっと10年前と同じように過ごすのだろう。大掃除してご馳走食べてガキ使見て笑いながら年を越す。やることは面白いくらいに一切変わっていない。ただ、そこには小さかった頃の僕を高揚させた3時間はもう存在しない。それだけで随分と変わった気がする。

あの特別な日はもう戻ってこない。

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