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本記事は2021年12月17日(金) 13時までの限定無料公開です。
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距離・方向・奥行き……地図を読む感覚が失われていく
地図を読めない、東西南北がわからない、そんな人は多いですよね。初めて訪れる駅に降り立ったら、まずは構内にある地図を見て……。最近はもっぱらスマートフォンの地図アプリでしょうか。
でも、地図を見ても自分がどっち向きに立っているのかわからず、スマホを片手に逆方向に歩いてはまた戻って……という経験がある人も多いでしょう。地下から地上に上がると、方向感覚を失い奇妙な気分になることも。
こうした出来事も、たまにならいいのですが……。これが、毎日通っている「いつもの道」でも迷ってしまうとなると、困りごとは多そうです。
いつもの道で迷ってしまう理由
普段通い慣れた道でも迷ってしまうのは、どうしてでしょうか。
1つ目は、前後左右の方向感覚が失われてしまうから。わたしたちは通常、「あっちの方に5分ほど歩いたあたりだったなあ」という感じで、現在地と目的地の位置関係を大まかに捉えながら移動しています。しかし、方向と距離、奥行きの感覚に障害を抱えることで、この関係を把握できなくなります。
2つ目は、見えていない道や建物を想像することが困難なためです。だれかに道を尋ねて、「2つ目の角を右に」と言われても、今、自分が立っている場所で「右」はわかっても「その先の角」がどこなのか想像できないため、どこで右に曲がればいいのかがわからなくなるのです。
3つ目は、ランドマークへの注意と記憶が難しくなるから。わたしたちは道を歩いているときに、「このポストが右に曲がる目印だ!」と強く意識していなくとも、なんとなく「ポストの角を曲がったな~」くらいの感じで、街のランドマークを自分の記憶に留めています。その記憶を重ねていくことで、「馴染みの街」というものができるのです。
しかし、ランドマークを記憶に留めておくことが困難になると、認知症のある方は、自分なりの特定の目印を決めて移動することが多くなります。その目印をなんらかの理由で失うと(閉店・改装・移動などにより)、曲がるべきところで曲がれなかったり、いつもと違う様子に混乱し、違う道を歩いてきてしまったと焦ったり、前に進めなくなってしまったりするようです。
4つ目は、視界や視野の問題です。認知症により、視野が狭くなり、頼りとしている目印が目に入らなかったり、曲がり角を見落としたりすることが起きがちです。
トイレのマークが一向に目に入ってこなかったのは、トイレのマークが通路側に直角に飛び出ておらず、壁に貼りついていたため、狭くなった視野に入らなかったことが原因の1つと考えられます。
5つ目は、心強い武器であるはずの地図(紙でもアプリでも)と、目の前に広がる景色を照らし合わせることが難しい。つまり、「二次元」と「三次元」の情報を照合することが難しいという理由です。
矢印の指す方向がわからなくなる理由
駅や店舗・道などでよく見る、「」とか「↖」︎とか「↑」の矢印。「これって戻るってこと?左上に進むってどういうこと?」。だれでも一瞬、指している方向がわからないときってありますよね。
その理由はこうです。わたしたちが目にする矢印は、紙や看板に描かれた平面上(二次元)の情報です。一方、その矢印が指す方向は、上下左右に加え、前後を含む空間(三次元)の情報を表しています。
そのため、矢印を見て進む方向を理解するためには、看板に描かれた二次元の情報と、目の前に広がる三次元の空間を頭の中で統合する、という高度な認知機能が必要となるのです。
地図を読むことが難しいのも、同じ理由です。