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野菜のこと

つくづく、どうしてビーツという野菜は、どうしてこんなにグロテスクで、どうしてあれほど不細工な形をしているのだろう、と、手に取るたびに思う。

ビーツといえばロシアの煮込み料理ボルシチが有名だけれど、私は煮て、スライスにしたものが好き。
学生の頃に暮らしていた国では、柔らかく煮てスライスにしたビーツを缶詰に保存したビートルート(Beetroot)がどのスーパーマーケットでも売っていた。ハンバーガーに挟んでもいいし、サラダにしてもいい。ステーキに添えれば立派な付けあわせになる。食材としても栄養価にしても、きわめて優秀な野菜なのに、ビーツは見た目で損をしている。
なにより、あの赤い色! ビーツの赤は、目に染みる。

あれ、もそう。
あれというのは、ルバーブのこと。ルバーブはシベリア原産のふきの仲間で茎をジャムにするときれいな赤色になる。ルバーブは寒い国が原産だから、涼しい土地でないと育たない。「美人になれる野菜」の異名をもつルバーブはヨーロッパではとてもポピュラーな野菜だ。

一度だけ、ルバーブの畑を見たことがある。
目的の場所にたどり着いたとき、たちまち何か素晴らしいことに巡り会ったと気付いた。足もといっぱいに広がる大きくて濃い緑色の葉。その大きな葉の下に、鮮やかな赤色の茎が隠されているのだと想像するだけで、ヨーロッパから届いたこの野菜と秘密を共有している気持ちになる。
受けとった両手いっぱいのルバーブは、そのままサラダになり、砂糖と煮詰めてジャムにした。その夏、私は甘酸っぱいルバーブを朝食にも、おやつにも、一日中たっぷりと味わった。 

プラスチックのようにつるりとしたパプリカ、膨張した木の実みたいなコリンキー、ずるりと触手をのばしたコールラビ。季節が一巡して店頭に並ぶ瞬間まで彼らの顔を忘れていたくせに、出会った瞬間、なんて奇妙な奴! と毎年驚いて、毎年忘れてしまう。私はいろんなことに驚くし、それに、とても忘れっぽい。

それにしても、あの色と形になるには、なにか特別な意志が働いているのではないか、という気がしてならない。野菜たちには未知の気配が漂っている。どれも作りものじみていて、とうてい畑からやってきたとは思えない。 

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