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新卒から2年で動物病院を辞めた獣医師

はじめに

このnoteは臨床経験も社会経験も浅い獣医師が、自らの主観と些細な経験を元に、基本的に何のエビデンスもソースも示さずに書き連ねるnoteです。科学学会やセミナーのような形式ばったものではなく、多様な考え方の一つとして捉え、ネット情報を正しいかどうか判断できる方のみお読みください。

なお、ここに記載する日時や内容は、早期に個人や関係病院を特定されないよう少々いじったものを記載しています。何卒ご理解いただけますよう、よろしくお願いいたします。

これを読んだ新卒・新人小動物臨床獣医師にとって少しでもご自身のキャリアやスキルを考え直すきっかけになれば幸いです。

自己紹介

  • 地方の一次小動物臨床

  • 臨床経験2年

  • 前職での業務内容

    • 一般診療(問診、検査、処置、簡易な治療方針の策定)

    • 入院管理

    • 心臓・腹部エコー検査、胃内視鏡検査

    • その他各種病理学的検査

    • 自信のある手術(執刀数不明)

      • 去勢

      • 子宮卵巣摘出術(避妊・子宮蓄膿症)

      • 帝王切開術など

    • 未経験・できないこと

      • 薬剤の分包

      • 腸管縫合、眼球摘出(死体での経験はあり)

      • 腹腔内陰睾摘出術

      • 鼠径・会陰ヘルニア整復術

      • 膝蓋骨脱臼など

    • その他スキル・業務

      • 院内清掃・消耗品の補充

      • Excel VBA、Googleアプリケーションによる書類作成業務の効率化

      • インフォーム用Webページの作成

結論:拘束時間が長すぎる

先に結論を記載しました。
"拘束時間"であって、"労働時間"ではないのでご注意ください。

ちなみに私は契約上では
9時〜12時 + 16時〜20時の所定労働7時間 + 休憩4時間
で働いていました。正直、動物病院業界では比較的マシな労働時間だったと思います。

22時まで残業するようなことは3ヶ月に1度程度にしか発生しなかったので、これを読んだ方からは「甘えるな」との声が聞こえてきそうなのは承知しています。

実際私自身も働きながら
「これでもうちはマシな方だ」
と思っていました。
"休憩時間中の労働が残業にはならない'"という状態であったものの基本給がかなり高額であり、小規模の病院に求めすぎても仕方ないと諦められる程度の感覚でいられるほどの給料でした。

言い換えるなら私は「時間の安定供給」を求めていたのだと思います。

"長すぎる"と感じる理由

その理由は主に以下の2点です。

  1. デフォルトの退勤時間が遅すぎる

  2. 休憩・退勤時間が安定しない

これらについて深掘りしていきます。

デフォルトの退勤時間が遅すぎる

私の病院の規定の拘束時間は9時から20時までの約11時間で.規定通りなら勤務間インターバルは13時間でした。
(総務省統計局の資料:"我が国における勤務間インターバルの状況-ホワイトカラー労働者について-(社会生活基本調査の結果から)"と比較すると、前職の拘束時間は著しく拘束時間の実態が長いわけではありません)

また、動物病院は大抵、朝9時から12時まで営業し、休憩時間を挟んで夕方16時から20時程度までが勤務時間になっていることが多いと思います。

ここでの問題は、退勤時間が20時となることが"デフォルト"になっているために、日常生活やスキルアップの時間を圧迫するのが常態化されている事です。

これは20〜30代の若手の臨床獣医師にとっては致命的です。

残りの30〜40年近く現役を続ける必要のある若い労働者なら、自分の将来に結婚・出産などいくつもの課題を感じていると思います。
家庭と子供を持つ臨床獣医師は、家事育児に専念する時間を十分に確保することは難しいこともあり、臨床を離れて公務員に転職する方も多いと聞きます。

また将来の収入増加を目指して自己研鑽に励むのにも、やはり多くの時間を要します。それは獣医学に限らず、語学やその他資格試験の勉強かもしれません。20〜21時に退勤するようでは勤務後に学校や獣医学のセミナーに"安定して"参加することは不可能でしょう。

私も通ってみたかった英会話学校や参加したかったセミナーが、大抵勤務時間内か、勤務終了直後に実施されているものが多く、参加できずに何度もがっかりさせられました。

そういう時にふと、「もしも将来、さらに育児や介護が重なったとき、果たして私は立派な獣医師・社会人になれるのか?」と不安が脳裏に浮かびます。(※私の思う"立派な獣医師"とは、自信の獣医療を常にアップデートし、エビデンスとコンセンサスに則ったサービスを提供できる獣医師のことです)

20時の終業時間規定は、通常の会社員の所定の終業時間が17〜18時であるとするなら明らかに遅いです。

営業終了後に処置やカルテ記入、ミーティングなどがあればさらに遅延し、場合によってはデフォルトで22時を超える病院もあると聞きます。通常の会社員と同じような生活スタイルは小動物臨床獣医師は諦めざるを得ないのかなと感じていました。

なかには、勤務終了後に勉強会を設けている病院もありますが、獣医師それぞれが目指す目標や専門性は違うものですし、私のように、"獣医学そのものを極めることが人生の主題ではない"と定義している若手獣医師には自身の将来を脅かす時間泥棒のように感じることもあります。

自分の仕事量や効率性を高めるなどして調整可能であればともかく、病院の規定で終業時刻が遅ければ、努力で解決できない領域であるかもしれません。

休憩・退勤時間が安定しない

私の前職の就業規定では「12〜16時の4時間が休憩時間」でした。
11時間の拘束時間のうち、4時間が休憩時間なので実働7時間です。
実働時間だけ見れば、勤務時間はやや少ないぐらいでした。
ただし以上はあくまで"書類上の話"です。

実態は休憩時間に手術を行うことが多いので、平均で1.5時間程度しか与えられず、当日の予定変更(緊急手術、エマージェンシーなど)も高頻度に発生しうる状態でした。この「当日の予定変更の常態化」を極めて厄介に感じていました。

退勤時刻が多少遅くとも、休憩時間が十分に確保されていれば問題ない」と私も最初は思ったものです。買い物や手続き、勉強などを休憩時間にやれば効率的に日常生活を送れそうに思えたのです。
しかし、そうした"それほど優先度の高くない予定を毎日のように潰される"のはかなりのストレスでした。

節約と健康のための自炊はコンビニ弁当に変わり、平日に実行できたかもしれない行政手続きは休日まで先延ばしされ、立派な獣医師として研鑽を積むための学習計画は遅延に遅延を重ねる始末です。

実際、休憩時間が潰れるだけでなく、退勤時間も遅延するような日も多く、そんな日は仕事以外に何もできていない状態になりがちでした。

「健康的な日常生活を送らなければ」「仕事だけじゃなくて勉強もしなければ」と、既に頑張った自分に更に鞭打って頑張ってようやく、社会人として、獣医師として自信が持てる気がしたのです。

獣医師という職を選んだ以上、"緊急事態で予定がキャンセルされること"にはある程度覚悟していなければなりません
これは小動物だけでなく、多くの産業動物獣医師や公務員獣医師も同様だと思います。

予定外の勤務に対する報酬や対価を組織が払ってないわけではありません
高い基本給や残業代、それ以外の日程で穴埋めすることもあるでしょう。

実際私も(20時以降の)残業代はしっかりいただいていましたし、比較的柔軟に休日を申請することができていました。

それらの報酬に満足できる獣医師はそのまま働き続けるでしょうし、私のように「時間の安定供給」を求める人間はただ去るのみです。

考えすぎ?

人によっては、私のスタイルや選択を「考えすぎだ」と感じる方もいると思います。

一日必死に働くだけでも勉強になる」とか「日常生活や家庭のことは案外なんとかなる」とか、先人たちのさまざまな経験談に勇気づけられることも多々あります。

一方で、そういうご意見をいただいた直後に
(でもそれって生存者バイアスなんじゃないか……?)
と心の声が囁くこともあるのです。若手の新人獣医師は誰しも一度はそういう不安を抱えたことがあると思います。

以下は現代の若手獣医師が抱える不安についてまとめたnoteです。

そういうマイナス思考の背景、私が父親と幼い頃に死別し家族共々生活に苦労した経験によるものなのかもしれません。

獣医師として定年を迎えるまで、事業や家族そして自分自身に一切の不幸も生じなかった人材だけが生き残れる世界に、人生の掛け金をオールインする勇気は私にはありませんでした。

今後の臨床獣医師人生の対策

私が見出した現代の若手獣医師人生ゲームの結論は「自分の時間とお金を獣医学に全力投球"しない"こと」です。

具体的に言えば「動物病院で働きすぎない」よう、週5日勤務を辞め、他業界の研究と事業創出を目指します。

動物病院業界自体は今後縮小していきますし、動物病院はまだ増えていきますし、愛玩動物看護師の登場で勤務獣医師の価値も低下します。

他業界や公務員・企業を目指すのは(私の中では)安易な発想で面白味に欠けますが、少なくとも余剰資金と時間を獣医学にだけ注ぎ込むのはそれなりに動物病院ビジネスで勝てる根拠がある人材に限られるのではないかと感じています。

私は趣味と貯金を兼ねて学生時代から株式投資をやっているため、分散投資をする癖がついてしまっています。
獣医学への投資をギャンブルにせず、せめてペット業界内で生き残ることで勝ちを目指すなら、他業界の研究や知識・技術習得も私の中の正解の一つだと思えるのです。

もちろんその過程で、動物病院事業で勝てる見込みが出てきた時はそこに全力投資することもあるでしょう。少なくともそれまでは分散自己投資を心掛けてまあまあの獣医師を目指して頑張ります。

以上です。ここまで読んでいただいてありがとうございました。

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