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元コンサルによる「表」の活用法

コンサルの付加価値の大きな一つは、議論を綺麗に整理することである。
会社内の議論は様々な論点が入混じり、発散に発散を重ねる場合があるため、適切な結論へと収束させる技術は非常に重要である。
コンサルはその様々な議論をまとめ、論点や比較軸を持ち出し、発散し前に進まなくなることを防ぎ、物事を前に進めていくことが大きな付加価値である。

今回のnoteでは初級編として就活のグループディスカッションを例にとり、コンサルの七つ道具の一つである「表」どのように議論を収束させるかを具体的に説明していきたい。

簡易的にお題は「車と電車どちらが有利か?」という雲をつかむようなお題であるとしよう。

目次

  1. ①議論発散フェーズ

  2. ②議論整理フェーズ : 表を使う

  3. A) 議論の視点を整理し、比較軸を作る

  4. B) 項目ごとに優劣をつける=タテの比較

  5. C) 項目相互の比較を行う=ヨコの比較

  6. ③結論

①議論発散フェーズ

お題が発表されるとかなりの確率で積極的な方が、自身の経験をもとにありがたい説明を展開してくれるだろう。この場合コンサルとしてはまずその人たちの意見を聞くことから始めることになるだろう。
往々にして顧客はコンサルよりその事業に対して詳しいため、細かいアイデアや気づきのようなものは事業サイドの方、つまり顧客のほうが簡単に思いつく。逆に言えばコンサルは業務知識で顧客に価値を提供すべきではない。
まずはしっかり話を聞くことを意識すべきであろう。

今回のお題を例にとると、非常に身近なトピックということもあり、様々な視点からアイデアが発散することになるだろう。
「電車は1回300円で乗ることができる」「車があれば移動時間を短縮できる」「いい車を持てれば自尊心が満たされる」「満員電車がつらい」などなど。よいコンサルとしてはまずこのような意見を聞くことからすべてが始まるため、しっかりと聞き、どのような視点が得られるかを注視すべきである。

②議論整理フェーズ : 表を使う

A) 議論の視点を整理し、比較軸を作る

意見が大方出そろったら、ここからがコンサルの出番である。
まずは今まででている議論を俯瞰的に眺め、どのような視点で主張されているかを考え、具体的な意見から抽象的な「論点」へとまとめていく。
ここがまず最大の重要な点である。ここでどのような視点で比較するかを決定するのである。
この時、いけていない方や金融出身者は「メリット・デメリット」で分類したがるが、メリットデメリットという分類に逃げてはいけない。メリットデメリットは抽象的過ぎる言葉のため、相互に比較することができないケースが多い。
ここでのポイントは抽象的だが、具体的な項目ベースまで落とし込むことが重要である。

今回であれば簡単に思いつく視点は「利便性」vs「コスト」だ。つまり車はいつでも移動することができる一方、購入やランニングに費用が掛かる。一方電車は駅まで行く必要があり、かつ時間も決まっているものの、1駅150円~から移動できる等コストが安い。

それによりまずは「利便性」と「コスト」という比較軸を表に書き込んでみる。


その次に考えるべきは、他に論点を見落としていないか?というチェックである。(時間が限られているため、どこまで網羅性を担保するかは難しい判断である。)

今回であれば、最初に紹介した2つのアイデアがまだカバーされていない。「いい車を持てれば自尊心が満たされる」「満員電車がつらい」の2つだ。これをどのように位置づけることができるかを考えてみよう。

少し考えてみると移動時間とコストは双方「物理的な効用」である一方、見栄やストレスは精神的な効用とグループすることができる。無理やりグルーピングする必要はないものの、精神的効用として「ストレス」と「見栄」の2つを精神的効用として比較表に追加する。


これ以上重要な論点がないことが判断できれば、ここからはこの表を基に、実際に比較を行っていく。
しかしこれではそれぞれが異質のものであるため、これだけで比較することはできない。比較する場合は必ず同質のものを比較する必要があるからである。そのため、これらの項目の中を定量化していこう。

B) 項目ごとに優劣をつける=タテの比較

まずは移動時間を定量化してみよう。とはいうものの、移動時間をどのように定量化するかは非常に難しい問題である。なぜなら誰のどういう場合にとっての「移動時間」なのか?によって移動時間は非常に大きく変わるからである。

ここでグループディスカッションにおいては「場面を定義する」ことが生きてくる。GDに少し慣れている人であれば、議論が始まった瞬間に物事を定義しようとするが、それは正しくない。なぜならなぜ定義することが必要かの視点がすっぽりと抜けているからである。定義をするのは「定量化のため」にほかならない。場面や対象を具体化することで、定量化できるという目的を常に持ちたい。

定義は非常に恣意的になりうるため、可能な限り中立な定義を意識しよう。就活のGDであれば「地方大学に通う大学生、実家に住んでおり、おおむね30分程度通学に時間がかかる」という誰にとってもわかりやすい中立な定義をしたと仮定しよう。

移動時間を定義することは簡単である。(というか半ば定義に組み込まれている)。電車での移動時間は、①通学に片道30分*2*20日=20時間/月の移動時間、②それ以外に10時間程度かかるとして、合計30時間の移動時間がかかるとしよう。一方、車では10分程度として400分=6時間ちょっと係ることになる。そのためその他の5時間としても30時間vs11時間となり、車に19時間軍配が上がる。この思考結果を表に書き入れるとこのような形になる。


その次にコストの定量化に移ろう。車はだいたい48万円くらいかかるとしよう。それにランニングコストがだいたい毎月5万円くらいかかるとする。大学4年間使用するとすると4年×12か月=48か月ある。そのため4年間使用すると仮定すると6万円/月が車のコストになる。

一方、電車のコストは通学は定期代があり、1か月1万円程度、その他利用を含め+1万円の合計2万円かかることになるだろう。そのため2万円/月が電車のコストになる。


精神的効用のタテの比較が残っているが、同様の作業を繰り返すだけのため、いったん割愛する。

ここで比較軸内での比較、いわゆる「タテの比較」が完了した。
次に行うべきは、比較軸相互の比較、つまり「ヨコの比較」である。

C) 項目相互の比較を行う=ヨコの比較

さてタテの比較が完了したら、次はヨコの比較、つまり利便性vsコストである。
やることはタテの比較とだいたい同じで、比較可能なように両方を同一の物差しに変換することである。

今回はおそらくお金に換算することが分かりやすい比較になるだろう。

定義された今回のターゲットは大学生で、基本的に自分でバイトをしなければいけないとしよう。(きわめて普通のターゲティングであると思われる。)

そうなった場合、月4万円を時給1,000円のアルバイトで賄おうとすると40時間必要になる。つまり19時間の優位性は、お金に直すとたった19,000円分の優位性にしかならず、4万円/月の優位性をもった電車には勝てないのである。

こうして結論としては、電車が有利である、という結論が導かれる。
なお発表の方法としては、①定義→②結論(電車の方が有利)→③アプローチ(比較軸は●個であること、最終的に金銭価値に変えて比較したこと)→④どのような比較を行って結論づけたか、という順番にする。

③結論

今回本記事で伝えたかったことは2つである。1つ目は表を用いることで、比較するときはタテの比較とヨコの比較を行えばいいことが可視化されるため、強力な議論を整理するためのツールであること、2つ目は常に定量化をすることで比較可能となること、である。

分かりやすく、かつ秘密情報を伝えず、議論の収束方法を書くためにグループディスカッションを例にとったが、実際のコンサルワークにおいても、表を用いて、タテヨコで比較する、表を用いて議論を整理する、という姿勢を忘れないでいてほしい。

表の訓練については、以下の書籍をベースに日頃からの姿勢を学んでいただくことが良いだろう。(表だけでなく、頭を整理することが得意になることは間違いない)

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