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小説家

私は小説家になるのが夢だ。
書いては消し、書いては消す。
だから一行も書けない。
書いた分だけ消しているからだ。

私はある日、小説を書くことを思い立ち、図書館に行って小説を書くためのハウツー本を何冊か読んだ。そして役に立ちそうな本を近所の書店で二冊買った。

『小説家になる為にはこれをやれ!』
『芥川賞作家が教える ためになる話』

私が何冊か本を読んで勉強になったことの一つにアイディアノートがあった。
私は何しろ忘れっぽい。
せっかく思い付いたアイディアを忘れてしまっては困る。
そんなわけで、私はアイデアノートを持っている。

私は初めて書いたページを開いてみた。

2017年11月25日
(まずは日付。僕はなぜかこの日から小説家を志した。理由はもう忘れてしまった。)
BFM(今読み返しても全く意味がわからない、多分何かの略だろう)
同じ交差点に自転車が止まっている(これも意味が分からない)
ネギトロ丼ありますか?(この日にネギトロ丼を買ったのだろうか?)
死神の磁力(こんなタイトルの小説があったような。。。)

特に得るものは無かった。

そんなこんなで私は小説を書いていないので、お金がない。生活するためには当然お金がいる。だから私は働かないといけない。
私はコンビニでアルバイトをしている。
私は真面目なので教えられた通りに、
マニュアル通りに接客する。
ロボットのように。
毎日同じことの繰り返す。
このまま私はコンビニで毎日、身銭を稼いで老いていくのだろうか?
このコンビニは私が老人になっても雇ってくれるのだろうか?
世の中は老人に厳しい。
もしこのコンビニが潰れてしまったら?
コンビニなんていつ無くなってもおかしくない。
私は死ぬまで働くのだろうか?
それは構わない。
でもコンビニで働くより小説を書いて暮らしたい。
でも全く書けない。

そもそも私には何も才能がなかったのだ。小学生の頃からそうだった。
運動をやってもダメ。勉強もダメ。
絵を描いたり、物を作るのは好きだった。小学二年生には市のコンクールで銀賞をもらったこともある。
しかしその才能もいつの間にか失われてしまった。何故かは分からない。
私が知りたいくらいだ。
コンクールで賞を取った後も絵を描き続けた。少し自分が認められたような気がしたし、何よりも絵を描くことそのものが好きだったからだ。
それでも、その才能は失われた。
多分私の中をたまたま才能のような物が通り過ぎていって、それを勘違いして才能だと思い込んでしまっただけなのだ。
私はそのうち絵を描くこともやめてしまった。

いまこの文章を書くまで、絵を描くことをやめたことすらも忘れてしまっていた。
だからこそ、いま私は小説家になるのだ。
ロボットのように働く毎日から抜け出すために、小説を書くのだ。

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