見出し画像

ファンサービスをしない監督 落合博満は野球ファンに何を与えたのか 第51章

勝つためにプロ野球の華を犠牲にした落合

落合は、就任1年目から勝つために様々な戦略を練り、他球団が思いつかないような作戦を実行に移した。

Numberの雑誌『なぜ今、読まれているのか 似て非なる名将 落合博満と野村克也。』でも、それらのいくつかが赤裸々に語られている。

私は、以前、落合がナゴヤドームで圧倒的に強いチームを作り上げるため、ナゴヤドームの使用球を飛ばないボールに変えた、という話を耳にしたことがあった。

それがこの雑誌に詳しく書かれていた。
渋谷真が球団取締役だった井出峻に取材して聞いた話として。

(落合が)就任1年目('04年)の6月、主催試合の試合球を変更してくれと言ってきた。当時は複数のメーカーが公認級を製造しており、どこを選ぶかは球団の裁量(届け出制)に任されていた。中日はミズノ。「最も飛ぶ」と言われており、実際に乗り換えたある球団の本塁打は、目に見えて増加していた。
しかし、変更時点でその一発攻勢に苦しんでいた宿敵があった。重量打線の巨人だった。主催試合で被弾は8本。残り4球団は計6本だったから、ターゲットは明らかだった。「飛ばない」とされたサンアップ製を新規登録し、巨人、ヤクルト、横浜との残り試合で使用した。巨人戦だけに使用しなかったのは「3分の1以上の試合で使用する」という条項があったためだ。

「語る力と、語らぬ力。」渋谷真
『なぜ今、読まれているのか 似て非なる名将 落合博満と野村克也。』Number 2022.09

2004年当時の巨人は、強大な戦力を誇っていた。中でも四番級を集めた打線は、圧倒的な破壊力があった。

本塁打は、守備では防げない。
落合は、本塁打を量産する巨人打線の迫力を目の当たりにし、被本塁打を減らすために使用球を飛ばないボールに変えたのだ。

飛ばないボールに変えたのは、巨人、横浜、ヤクルトとの試合。
その理由は、前年の2003年のチーム本塁打数から見えてくる。

巨人:205本
横浜:192本
ヤクルト:159本
広島:153本
阪神:141本
中日:137本

つまり、落合は、中日が最も貧弱な打線であるがゆえに、富強な打線を持つトップ3の球団に対し、使用球を変えて投手戦に持ち込もうとしたのだ。

2004年の中日は、チーム本塁打数が5位に31本差をつけられて最下位、チーム安打数も最下位、チーム打率も5位にあえぎながら、リーグ優勝を果たす。

落合は、計算できる投手力、守備力、機動力を鍛え上げるとともに、さらに使用球までもを味方につけたのだ。

本塁打数や安打数、打率が下がってしまうデメリットには、目をつぶってまで、投手を中心とした守りの野球に徹した。

「プロ野球の華」と呼ばれる本塁打をプロ野球ファンは最も見たがる。しかし、そんなファンサービスは不要だ、と言わんばかりに、犠牲にした落合。

2004年の中日のチーム防御率は3.86で1位。失策数も45で最少。盗塁数は95で2位。犠打数は101で1位。

そこには、既に8年間の黄金時代到来を予見させる数字が並んでいた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?