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【symposium】(Part.1)「クバへ/クバから」_第1回座談会(レクチャー1)上演記録「三野新の作歴とプロジェクト全体の基本構想をめぐって」

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はじめに

山本 では、はじめましょうか。
 いま、2020年9月6日の16時頃です。三野新・いぬのせなか座写真/演劇プロジェクト「クバへ/クバから」で行う最初の「座談会」を行うために、六本木の「ANB Tokyo」に集まっています。
 本プロジェクトは、約8ヶ月ほどかけて、写真家、美術作家として活動されている三野新さんの初めての写真集を制作していくというものです。三野さんだけでなく言語表現・批評グループ「いぬのせなか座」のメンバーも加わり、様々な試みを展開していきます。
 今回、三野さんが自身の最初の写真集の中心となるイメージの対象として選んだのは、「沖縄の風景」でした。沖縄はそれ自体、重要な問いとして機能する傾向があり、たとえば今日の議論においても、参加メンバーごとの意見が様々に対立し拮抗する場面が多く見られることになるのは、良い意味で避けられないかと思います。

 ただ、同時に今回のプロジェクトでは、「沖縄の風景」と同等に重いものとして、「それを初めての写真集のモチーフに選んだ三野新という作家はいったいどういう存在なのか、そこで何が目指され、問われ、思考されているのか」という問いが、根深く存在してもいます。そしてそれは、三野さん自身が帯びる当事者性と三野さん以外の人々――いぬのせなか座や観客など――がどう関わっていくのか、という意味で、プロジェクト全体を貫く問いである「(非)当事者性と表現はどのような関係にあるか?」とも切り離せないものとしてあるでしょう。
 こうした背景から、最初の「座談会」のテーマとして、「三野新はこれまでどういった活動を行なってきたのか?」を提案させていただきました。
 三野さんの作品をあまり知らないというメンバーも、いぬのせなか座のなかにはいますし、これを見聞きし/読んでいる人のなかにも、当然多くいらっしゃるかと思います。三野さんがどういった背景で、写真と演劇という、一見するとバラバラな表現形式に同時に取り組み、どういった問いを立て、いま「沖縄の風景」をモチーフにした写真集を、なぜこうしたあまり一般的でない仕方で作ろうとしているのか。そこのあたりをまず内外に共有し議論していくことが、プロジェクトを今後進めていく上で、重要と考えました。

 ということで、今日は、どうだろう、3時間ほどですかね……かけて、三野さんの活動を、他でもない三野さんご自身によって(笑)、一気におさらいし、それを起点に議論していくことで、今回のプロジェクトの全体の「土台」を作っていければと思います。もちろん並行して、プロジェクトが公になる前に無観客で行い、公になったタイミングでそのアーカイブが公開されるという――COVID-19感染蔓延をきっかけとする――すこし特殊なスタイルで「座談会」を行うということ自体が、今回のプロジェクトにおいては、写真/アーカイブ/上演/距離/フィクションなどをめぐる、幾らか踏み込んだ実践として機能してしまわざるを得ないということも、おそらく今日ずっと、どこかで強く意識しつつ……。

三野 ありがとうございます。まず最初に、今回のプロジェクトに関しての前提となる考え方を話していきます。ここ数年、沖縄の撮影を通じて、日本におけるというか、特に僕の場合は、自分の住んでいる場所である東京と、沖縄で撮影されたイメージっていうものの遠さを感じていました。それは別に物理的な遠さってことだけではなくて、自分たちの精神的なものや政治的なもののような、もうちょっと複合的な問題でもあります。物理的にも「持ってくる」のがかなり難しい距離。それはもちろんある種の搾取構造だったりとか、垂直的な関係性、どうしても押し付けてしまっている感覚、沖縄と東京は対等な関係であるのか、みたいなものだったりします。最初の前提として様々な問題があって、それを、なかなか自分自身は解決できず、沖縄で撮影した作品をうまく発表できないままでいました。

 で、発表資料にランシエールの話を書いたくだりがあるんですけど、彼は要するに、誰もが当事者であり、誰もが自由であって当然で、逆に言うと誰が何を表現しようとしても基本的にそれは自由である、ということを述べています。一方でしかし、「リテラルに自由にはならない自由」みたいなものも、表現の前提としてはあるでしょう。そのことが今回のプロジェクトではすごく大事です。じゃあ自由って一体どういうことなのか、表現ってなんなのかっていうところまでじっくり考えていきたいと思っています。
 もちろん、そういった自由さみたいなものが、勝手な振る舞いを増長させたり、容認することになってしまってはいけないし、そのような行為と表現の自由とが混同されないようにする必要はあると思います。また一方で、こういった制限が身振りとしてのみ機能して、表現行為が暴力性を覆い隠してしまうこともあってはならない。さらに言うと、よく「身振りには実効性がない」と言われちゃうんだけど、本当にそうなのか、ということもあります。

 これから僕たちが行うプロセスは、実は多くの表現者によってすでに行われている可能性がある、ということもまた留意しておきたいです。そしてそのプロセスは、ことさら表現の俎上にのらない、ある意味で沈黙のプロセスだと僕は認識しています。では、なぜ先行する表現者たちは沈黙してしまうのか。あるいは沈黙をしているだけで、実はあんまり考えてなかったりするのかもしれない。その沈黙によって逆に語ることが抑え込まれてしまうような、なにか別の問題があったりするのではないか……などということも、考えています。
 つまり、今から僕たちがやる表現というのは、すでにある程度表現を続けている人からすると、当たり前のことと言われてしまう可能性も大いにある。ただ、すでにそういった実践的な作業をバリバリやっちゃってます、みたいな人だけに注目するのではなく(もちろんそういう人にも開かれているのですが)、これから表現者になるためのプロセスを経る時に、なにかを発表することがより自由になるかもしれないと考える人たちからより注目され、開かれているものにしたい。それが最終的には表現に全く興味のない多くの人にも、同じ問題意識を持っていたり同じ考え方をしている人にも、同様なあり方で考える土壌として、つまり、資料みたいなものとして提示が出来るとすごいいいなと思っています。

 次に、「クバへ/クバから」というプロジェクト名について。モチーフになっている「クバ」は、和名を檳榔(ビロウ)と言って、主に亜熱帯地域に植生する植物です。沖縄では神聖な植物として考えられていて、一方でカゴや家屋のような日常的な素材にも使われる、重要かつ一般的な素材です。写真家の比嘉康雄さんによる、久高島を舞台にした写真集『母たちの神』という本があります。久高島にはニライカナイに捧げる沖縄の伝統的なお祭りがあるんですけど、その儀式の中で行われる特徴的な身振りが、僕にとってクバのかたちと似ているように感じられ、そこに注目してタイトルを付けました。クバのかたちから儀式の身振りが作られたのか、それとも儀式の身振りからそれに似たかたちを持つクバを繁茂させたのか、どちらがあとか先かはわかりませんが、そういった植物の繁茂する場所と、人間の具体的な身振りとの影響関係への関心が、そもそものプロジェクトの発端となる撮影行為を行なったきっかけにもなっています。

 また、「クバへ/クバから」におけるスラッシュ(/)に関してですが、僕にとって「クバへ」は、撮影行為に裏打ちされた、自分自身が制作に向かう方向性を表します。そして「クバから」は、既に撮影行為を終えた後に生まれる問題点を、撮影された写真が発表されるに至るまでの様々な問題や、その前提となる考え方と合わせて、いかに考えることができるのかという、共同体に向けた方向性を表します。後者はすなわち、僕としては、演劇としての考え方です。その上で、「クバへ/クバから」というプロジェクト名には明確にスラッシュが入っていて、両者がしっかり区分されているように見えるんですけど、実は、写真制作行為と共同体の拮抗関係をどう考えていけばいいのかという問題や、ある作品をどうパブリックに表明していくのかといった演劇的な行為の問題などが入り混じり、複雑に立ち現れていくのではないかと考えています。

 ちなみに、沖縄の風景に関する写真史との繋がりだったりとか、自身の作家としての立ち位置であるとかは、次回の座談会で詳らかにする予定です。今回の座談会では、自身の制作を振り返りながら、どういう風にして「クバへ/クバから」に至ったのかという、沖縄のイメージを話題にする「以前」の部分をはっきりさせた上で、いぬのせなか座と一緒に考えていきたいと思っています。それがひいては、私といぬのせなか座の関係に留まらず、この座談会を見たり聞いたりする人たちにも大いに有用になるということに繋がっていくんじゃないかと考えています。

Part.2につづく)

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写真家・舞台作家の三野新と、いぬのせなか座による、沖縄の風景のイメージをモチーフとした写真集を共同制作するプロジェクト「クバへ/クバから」…

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