【symposium3】「クバへ/クバから」第3回座談会(シンポジウム)上演記録「『沖縄の風景』をめぐる7つの夜話」第7夜(12/27)「写真集制作に向けた公開編集会議の上演」(Part.7)
(Part.6はこちら)
ところで、どうしてクバなのか?
笠井 hさんは聞いていてどうですか?
h 三野さんが九州や福岡でもクバを撮ろうというときに、まだやはりこれまでの座談会や活動の中でクバについてが体系化されて語られてきていないと思うので、なぜこの植物に三野さんが惹かれるのか……
三野 気にしているのか。
h (大きくうなずきながら)というのが、やはりひとつ、まとめなくてはならないところなのかなっていうのが、出てきはする気がしています。ただ単に「沖縄で神聖なものだから」では、なにか突破できないようなものがある気がしていて。
三野 ぶっちゃけ、これ言っちゃうとアレかもしれないけど、やっぱ「グッとくる問題」が発生していて。
鈴木 (笑)
三野 やっぱクバはグッとくる。その写真を撮って「ああ、これやっぱいいな」ということが明確にあるんだとおもいます。それがすごく大きいですね。ただ、それが必然性になるのかというと、たぶんならないんだとは思うんですよね。いまのところその「グッとくる問題」以外ではあんまりクバは解決できていない。もちろん天皇の問題を考えるというのはコンセプチュアルな問題としてあるけれども、それは……。
鈴木 相当に隠喩的ですよね、天皇の話をするっていうのは、クバをとおして。
三野 はい。
h クバという植物に、三野さんがなにかを強く感じているっていうことをはじめて聞いた気がするけれど、そんなことないですかね?
三野 そうかも。けど、要はこんなにいっぱい撮ってるってことはぜったいグッときてるやろ、と明示する能力が写真にはかなりある。たとえば、ずっと同じものを撮ってるってことは、まあなにかしら「キテる」から撮ってるんだろうと、自ずと分からされてしまう。カメラの機能として、同じ被写体がたくさんあればあるほど、それを意識するなにかが(撮影者には)あるんじゃないかと(鑑賞者に)を想像させる力があるんですよね。
h そうですね。なにかがあるのだろう、ということは確かに感覚しつつも、それは一体どこからくるのか、そしてどのような感覚なのだろうというのは、ずっと感じています。三野さんは、クバと身振りの問題も何度か言及していますよね。沖縄で、御嶽などで行われていた神事の身振りと関わるのではないかと。三野さんがクバを見るときには、クバ自体になにかを感じながらも、そのことも投影しているのではないかと考えていて。
三野 そっちももちろん投影している。
h でも、今の話を聞くと、まずは植物としてクバが大好きみたいなところがあるんですね(笑)
三野 (笑) だから、つまんないなとは思うんですよね、グッとくるってことを提示することが。
h つまらない?
三野 つまんないなとは思ってる。単純すぎるし。
「好き」の歴史、ぐっとくる自分
h でもまず、好きという感覚からはじまるというのは、そうだと思います。これが好きとか、これが大事だって、なぜか思ってしまうみたいな。だって、そうじゃないと興味をもって調べたりしないじゃないですか。
だから、つまらないかもしれないけれど、それはやっぱりすごく重要な部分であるし、この写真集も「クバへ/クバから」と名前が仮でつけられているけれど、だからといって、三野さんの趣味嗜好だけというプロジェクトでもない。反対に、だからこそ、その三野さんの感覚は大事にすべきだと思っています。
三野 その趣味嗜好は、同好会的な気分でもあるんですよ。写真家クバ同好会。クバには東松もぜったいグッときてただろうし、中平なんかめっちゃグッときてたわけですよね。
h これまでの歴史的な問題とも深く関わっているということですよね。
三野 それも、ありますよね。グッときてしまう自分がいる。で、彼らはそのグッときたことを、ふつうにちゃんと提示しているけれども、ぼくは提示ができないという問題がある。それは現代的な問題でもあるので、そこはクバ同好会の先輩たちの表現との大きな差分となるだろうと。
h そこのところを一度、三野さんの中でも、いぬのせなか座でも、一度考えないといけないのではないかと思います。
三野 (画面外で山本から写真を受け取り)これアダンですね。
h そう、アダンとクバの問題もありますし。
三野 アダンも、いいんですよね。グッとくるんですよね(笑)
山本 アダンという名前の植物、ですね。
三野 はい。ちょうど青葉市子さんの新しいアルバムもアダンがフィーチャーされていて、あの、アダン……アダン……アルバムの名前忘れました。
なまけ こないだ出たやつですね。
三野 あ、『アダンの風』だ。
h 九州にはアダンは生えているんですか?
三野 えっと、それはまだ調べてないです。クバは生えてるんですけど。アダンは、奄美まで生えてるのは知ってるんですけど。鹿児島あたりまでなのかはちょっとわかんないです。
選ばれた「ぐっとくる」撮り方
なまけ なんか、クバじゃなくてもいいとおもうんですよね。(写真を指さして)こういう写真とか、なんで……撮ったわけじゃないですか。で、なんかたぶんグッときてるわけじゃないですか。
三野 (カメラに写真を見せながら)これ?
h これ?(別の写真をカメラに見せる)
なまけ (両方を指さして)これもこれも。三野さんがそのときなにをおもって、なにがあってシャッターを押したのか、っていうのがひとつ問題としてあって。さっき一平ちゃんが言ってたけど、そのとき撮った自分っていうのをもういっかい再現しようとして、考える、なにか撮ってみるっていうのが、なんでクバを撮るんだろうっていうのを明らかにすることにつながってくるかもしれないですよね。べつにクバじゃなくてアダンにもグッときてるわけで。
三野 (笑)
なまけ なにがグッときてるのかを考えるとき、べつにクバじゃなくてもいいかもですよね。
h 昨日のなまけさんの発表のなかでも、
なまけ 一昨日な。
h あれ、一昨日だっけ。
三野 一昨日です。
h そっか。一昨日のなまけさんの発表のなかでも、三野さんの方法論について、実はあまり明らかになってないよね、という話があって。それこそ、どのようなところになにを感じてシャッターを押すのかとか。発表の中では、たとえば人工物を撮るときに物陰から撮っている感じがあるのではないか、のような話にもなっていました。撮影者である三野さんからのそういう話があまり聞けていないけれども、とても重要だと思います。だから、なんかあの……まとめてみてほしいです(笑)
山本 (笑)
三野 けっこうその、これとかも、えっと、こっちがですね、基本的に、あっ、えっと、35ミリフィルムの写真ですね。写ルンですの写真だ、あ、これは...…。こっちが35ミリで、こっちが中判フィルムで撮っているんで、明らかに写真の質が違っていて。
なまけ たしかに色味とかもぜんぜん違いますね。
h (左手で35ミリの写真をもって、右手で中判の写真をもつ)
なまけ 山本くんが言ってたのは、最初にもらったやつと違って、今回もらったやつは人がすごい写ってるっていうのはそうなんだけど、この、人が写ってるなかで、誰かが撮ってるのを撮ってるっていう写真もすごい多いよねって。そこもなにかありそうですよね、人がいて人を撮るからそうなっているのか、人が撮ってるっていうところをあえて撮りにいっているのか。
三野 (なまけに真っ暗な写真を手渡す)
なまけ これはいいっすね~。大好きですね~。
h (笑)
山本 真っ暗(笑)
三野 真っ暗。hさんがちょっと写ってる。
三野新の写真言語はどのような言葉か
h なまけさんの発表のなかでも、繰り返しになるかもしれませんが、カメラの使い分けの話もされていました。
三野 (hさんの肩越しに向こうを撮った写真をhさんに見せる)
h それも、三野さんのなかで撮影の際におそらくあったのではないかと思うところです。
三野 そうだな~。
なまけ (hさんの肩越しに向こうを撮った写真を指さして)これなんかあれですよね、ぼくが話してたものとかの、あ、なんかしゃべってる。
笠井 写真篇は、三野さんの方法であり、作家としてのこだわり・偏りであって、写真の選択・配置・構成によって、それこそ表現になるだろうし、東松や中平と比べたときの、何かしらの「示せなさ」を示すことでもあるだろうと。hさんの話に引き寄せると、その方法がもう少しぼくらに伝わってくると、自作を書くときに、より緊密な絡みあいや、複雑な層をつくるときの手がかりになるんじゃないか。
なまけ (hさんに向かって)それを聞いて小説を書こうとしてる?
h わかんない(笑)
笠井 ダサいのでやめたほうがいいのは、写真篇で行われたことを、テキスト篇で三野さんが単に解説しちゃうと、それはもうぜんぜん違う。あくまで写真的言語として、(「写真篇」の文字列を指さして)ここで語られていることが、(「テキスト篇」の文字列に向かって流すような身振りで)5人のテキストに響く、ないしは(「写真篇」と「テキスト篇」の文字列をそれぞれ指さしながら)あえて切れたものとして入ってくるといい。
となると、そのテキストがどうなりうるかは各々で考えるにせよ、三野さんからの投げかけがひとつあってもいいかもしれない。
三野 なるほど。
h インタビュー形式でもいいと思います。わたしとかが、「三野さん、これはなんでしょうか」みたいな感じでする(笑)
笠井 (笑)
h どうすか、という感じで(笑)
三野 写真、ね、むずかしいなぁ、写真、むずかしいっすね。だから、う〜ん、むずかしいな~。写真、むずかしいっすよね~。
(Part.8へつづく 順次公開予定)
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